「あ、俺のこと夏輝って呼んでくれたら嬉しいな。」


いきなり、下の名前はちょっと抵抗がある。

でも、そうじゃないと最初の友達が出来なくなる。


「な、夏輝くん……。」


照れるな…。


「やっぱり、無理。ナツでもいい?」


「え、いきなりあだ名?」


夏輝は笑う。

名前の方が違和感がある。

でも、あだ名だと呼びやすい。

ずっと前から友達だったような感覚で、悩まなくて済む。


「ゴメン……。名前呼ぶのは照れる…」


「そか、良いよ。そっちの方が親近感沸くよね。」


「うん。ヨロシクね、ナツ。」


今気付いたけど、私達、何回「ヨロシクね」を言えば気が済むのだろうか。


「じゃあ、春咲明日香ちゃんは……。ハルだね。」


ハルって、呼ばれて、ふと後ろを向いた。

後ろにハルが居るのかと思った。


「なんで、ハル…?」


「春咲のハルだけど…、なんかあった?」


「いや、そういう訳じゃないけど…。」


ハルって、呼ばれるのは正直嬉しくはない。

ハルはハルだ。

私はハルじゃない。

__その時から違和感を覚えた。__


「じゃあ、ハル。3年間ヨロシクね。」


「うん。」


「もうすぐ入学式始まるよ、教室行こ。」


校舎の外に付いていた時計を見たら、入学式が始まる20分前だった。


「そうだね。」


私達は、掲示板の前の人集りの中から抜け出して、下足室に向かった。

その時には、ハルのことはすっかり忘れてた。

喧嘩していることも全部。

ハルは3組。

今年1年間もう関わることがなくなることを私はその時は知らなかった。

──入学式終了

教室でのHRが始まった。

今日の内容は、自己紹介だった。

出席番号1番から順番ですることになって、私は25番目だった。

その次は夏輝だった。

次々と自己紹介していく。

とうとう、私の番が来た。

椅子を引いて、その場に立つ。


「えっと……。春咲明日香です。趣味は歌う事とギターを弾くことです。部活は軽音部に入ろうと思っています。今年、1年間よろしくお願いします。」


緊張した。

友達になれるような人は沢山いるけど、自分から声を掛ける勇気はない。

次はナツだ。

どんな自己紹介をするのだろう。

耳を立てる。


「浜咲夏輝です。趣味と言うか、特技はドラムです。俺も軽音部に入る予定です。1年間宜しくお願いします。」