彼女の前に僕は立った。

「僕と結婚して下さい」


 僕はエンジの小さな箱を、両手で差出し頭を下げた。

 僕の荒い息だけが響き、彼女の返事が無い……
 


 あっ、僕は何をやっているんだ…… 

 そっか、あれから何年経っているんだ…… 


 手に持った箱を下ろそうとした時だった。

 僕の首に、ほわぁっと何かが掛かった。

 白いマフラーだ。

 あの時の……


 僕の手から、小さなエンジ色の箱が無くなった。


「はい」

 返事の先には、エンジ色の小さな箱を手にした、彼女の笑顔があった。


 僕がずっと、ずっと待っていた笑顔だった……


 僕はその場で、恥ずかしくも泣き崩れた……