「もう、そろそろ来るとおもうんだが……」

 部長もそわそわしている。


 その時、後ろでなにやら揉めている声がした。

「おじさん! 騙したのね。洋服買ってくれるなんて言うからおかしいと思ったのよね!」


「おい! 声が大きい。会うだけだから…… 頼むよ…… 美味しい物が食べられるから」


「絶対、お断りしますからね」

「わかったから……」


 おいおい、あちらも嫌々じゃないか…… 

 まあ、これで断りやすいと僕はほっとした。


「オホホホ……」
 奥さんが笑ってごまかそうとしている。


「……」
 部長は何も言わず、汗を拭っていた。



「いや―。お待たせしちゃって……」
 太い男の声がした。


 声の通り、割腹のいい六十歳位の男がやって来た。


「こっち、こっち」

 男が手招きする先へ、僕は目を向けた。



 颯爽と入ってくる女性…… この姿…… 僕は思わず席を立った。


「いらっしゃいませ」

 ぼそっと口から出てしまった。