午後一時半を回る、

 彼女は変わらず颯爽と現れる。

 融資窓口の僕の前に来ると、いたずらぽい目で、彼女は笑いを堪えるように僕を見た。

 僕も軽く彼女を睨み、手形一覧の入った封筒を渡した。

「ありがとうございます」
 彼女は何事も無かったように、頭を下げて待合ソファーへ向かった。

 この、二人にしか分からないやり取りを、嫌だと思う訳がない。

 僕は嬉しくてたまらなかった。


 その後も、ポケットに飴が入っているくらいならまだましで、上着のポケットからボールペンを出し、お客様に渡そうとフックを押したら、カエルの人形が飛び出て来たり、上着のボタンがリボンに変わっていたりと、いつの間にいたずらを仕込むのやら…… 

 そんな僕の姿に神野が耳打ちした。

「雨宮さんと上手く行っているみたいですね……」

「上手くっていうのか? おじさんが、からかわれているだけの気もするが……」

「いいじゃないですか? 何もないよりは……」

「そうだな……」

 僕の心の中で、彼女の事を知れば知るほど存在がどんどん大きくなっていた。