恋愛預金満期日 


「でも、なんで私のお蔭なんですか」
 彼女の質問に僕の顔は赤くなった。


「背中を押してくれたのは、あなたですから……」

「わたし?」
 彼女は不思議そうに僕を見た。


「あなたは気が付いて居ないかもしれませんが、銀行にあなたが入ってくると、皆の活気が出るんです。僕もあなたの颯爽とした姿に、背中を押されたんです」

「私なんて……」
 彼女の目が悲しげに変わった。


「僕にとっては、あなたは輝いている人なんです。さあ、煮えて来た。食べましょう」

 僕は言ってしまった恥ずかしさを隠そうと、鍋の蓋を開けた。


「うわ―。美味しそう!」
 彼女の顔が明るくなった。

 美味しそうに食べる彼女の姿に、僕は慌てて、自分の器のキムチ鍋を口に運んだ。

 あまりの熱さと辛さに咽込んだ僕に、彼女が慌ててお手拭を差出すと、耐えられないかのように笑い出した。
 
 僕も笑った。


 たわいも無い話をしながらビールを飲む。彼女はちょっとした事にも笑い出す。
 僕の前でこんなに笑う人見たのは初めてだ…… 

 最後の締めに、雑炊かうどんで彼女と揉めた。
 じゃんけんで決めようと言う彼女に、僕は賛成し真剣な手真似をした。

 又、彼女は笑い出す。

 結局じゃんけんに彼女が勝ち、うどんとなった。

 彼女は嬉しそうにうどんを口にし、僕の顔をのぞき込んだ。

「ねえ、うどんもおいしいでしょ?」

「まあね……」
 僕は返事をしながら思った。


 うどんだろが雑炊だろうが、僕は彼女と一緒に食べられるなら、どっちだっていい。

 彼女とこんな時間を過ごせた事は、僕にとっては奇跡なのだから…… 

 僕の今までの人生の中で、最高の日だ。

 幸せだと思った。


 でも彼女にとっては、一番悲しい日であったのかもしれない……

 いつか、彼女と同じ幸せを噛みしめる事が出来るのだろうか? 

 でも今は、彼女の悲しみに、少しの暖かさがより添えればいい。

 今は、それだけでいい……