『静かな林の中の神社は、何百年も前からそこに祭られている。
 時代は変わり、町も人も変わって行く中で、神社の秋祭りだけは変わらない姿を今年も見せた。

 秋恋神様の言い伝えもそのまま、今年も黒い法被の若者達を燃え上がらせている。
 あの秋祭りから、何十回もの祭りが火の子を見せた。

 何百年も祭られている秋恋神様にして見れば、わずかな時の流れの恋なのかもしれない。
 
 きっと、秋祭りの恋に落ちた多くの者たちが、絶やす事なく大三国の火を燃え上がらせてきたのだろう……
 いくつもの恋への感謝と願いを込めて……』


 私は、枕元で看取っている孫娘に語り終わると、安心の吐息と一つの恋を抱えて目を閉じた…




 大三国の噴き上げる火の子の中を、肩を組み愛おしそうにきおう男女の姿があった。

 祭りの後の、煙の臭いの残る境内に二人の姿がある。

 
「嘘つきじゃなかったね」彼女は言った。

「俺は、嘘つきじゃない」
 

「好きになってもいいですか?」

「俺も…… ずっと前から、好きだった……」


 彼の手が彼女を優しく抱き寄せた……

 そして、二人の唇が重なった…



 
  秋の冷たい風が二人を包むように吹き去った……