私が、3歳の時だった。

お母さんと2人で公園にお弁当を持って桜を見に行った。

「おかーさん!見て見て、桜がきれーだよ!」

お母さんは、大はしゃぎの私を優しく微笑んで見ていた。

そんで、一緒にお弁当食べて、おにぎり落として、泣いたんだっけ。

「泣かないの」ってお母さんは頭を撫でてくれた。

公園でしばらく遊んで、お母さんが言った。

「季歩。お母さん、ちょっと用事があるから1人で先に帰っててくれない?」

その時、少し強い風が吹き、お母さんの長い髪が少し乱れた。

「えー分かった。一人で帰る…」

私はしぶしぶそう言った。

「季歩は偉いね。」

そう言って、頭を撫でてくれる。

お母さんに褒められて、少し笑顔になる。

そして、また風が吹く。

花びらがヒラヒラと舞い落ちし、お母さんの白いスカートが、長い髪が揺れる。

「それじゃあね、季歩。」

そう言ってお母さんは背を向け、どこかへ行ってしまった。

その時のあのなんとも言えない表情を私は忘れることができない。

あの頃の私も何かしら察したのだろう。

ただ、何も出来ず立ったままポロポロと涙を零していた。

多分、お母さんはお父さんからの暴力に耐えられなくて、家を出ていったのだと思う。

引き止めたら、お母さんに迷惑をかける。

でも、寂しい、悲しい。

そして、お母さんが家に帰ってくることはなかった。