今日から家庭教師の先生が来るらしい。

私はこれでも中3。

受験生なのです。

ガラガラと扉の開く音。

「季歩ちゃん。家庭教師の先生来られたよ。」

そこには背の高いメガネをかけた男の人がいた。

「宇野です。よろしくね、季歩さん。」

そう言って微笑む先生。

私は微笑み会釈だけする。

「宇野先生は、毎日2時間来られるから。勉強頑張ってね!」

そう言うと、看護師さんは出ていった。

宇野先生はベッドの横に置かれた椅子に座った。

「えっと、中2の途中から学校行ってないんだっけ?」

そう、私は中2の途中から学校に行っていない。

それまで成績は良くもなく悪くもなかったが、今はというと成績さえつけられていない。

私はただ頷く。

「あのさ、近くの公園行こっか。」

え!?

「勉強…しなくていいんですか?」

なんで公園なの?

「だって、勉強なんてする気になれなくないか?桜、もうすぐ散っちゃうから見に行こ?勉強はいつでもできるけど、桜は今だけじゃないと見れないからな。」

まぁ、確かに勉強なんてする気になれませんね。

桜…かぁ。

心が躊躇う。

やめた方がいい、そう言っているのだろう。

でも、普通に桜は好きだ。

見たい気持ちは嘘じゃないし、行こっかな…

行かなかったら普通に勉強させられるだろうしね。

「ん、じゃあ行きます。」

すると先生は微笑んだ。

「ありがとうな。」

なんで…こんなに嬉しそうなんだろう。