「それじゃあ僕、雨もやんだし行きますね」
彼が私に背を向け、ここをあとにしようとする。
「あ…!」
"行かないで"
そう言おうとして言葉を飲み込む。
「ん?」
彼は不思議そうに私を見ている。
「…ありがとう」
そう言って私は笑った。
彼が初めて私に向けた、あの笑顔のように。
「僕のほうこそ、ありがとう」
私はなにもしていないのに、彼はお礼を言って背を向けた。
彼が走り去る後ろ姿を、見えなくなるまで見つめていた。
名前、結局聞けなかった。
でも何故かいつか会えるような、そんな気がしていた。
もう私を裏切ったあんなやつのことなんて忘れてしまおう。
あいつは運命の人なんかじゃなかった。
ただそれだけなんだから。
私は虹に背を向ける。
これからは雨の日の方が好きになるかも。
そんな予感がした。