「それよりあなたこそ、大丈夫ですか?」

「はい、意外と。ずっと覚悟していたことですから」

「辛かったら泣いてもいいんですよ」

「いいえ?悲しくないので大丈夫です」

この子は本当、強情な子だ。

「…本当素直じゃないですね」

「失礼ね」

泣きそうな顔をしているくせに。
彼女のプライドなのだろう。

彼女は立ち上がって僕に背を向け、扉のほうへむかう。

「また保健室へ来たら、話聞きますよ」

そういうと彼女は僕のほうへ振り向いて言う。

「失恋が確定した場所なんて二度と来ないわ」

そう言って彼女は笑ってから、保健室の扉を閉めた。
君のその性格、嫌いじゃないよ。

僕はふふっと笑うと、珈琲に口をつける。



僕は柏木美々さんが好きだった。
おそらく、一年前に保健室にやって来たときから。

気持ちを伝えたつもりだったが、彼女は気づいていないだろう。
キスだって、彼が止めなければするつもりだった。

もう少し時間があれば、振り向かせる自信はあったんだけれど。
昔からの幼馴染みで、長年の片想いに勝つのは難しいようだ。

でも僕は後悔していない。
彼女の幸せそうな表情に勝るものはない。
これで良かったんだ。

これからはきちんと気持ちを伝えよう。
いつかまた誰かを好きになったら、後悔しないように。