それから彼女は月曜1限の講義以外でも僕に話しかけてくるようになった。
たまにお昼ご飯を一緒に食べたり、帰り道を共にしたり、彼女と話すことが多くなった。

彼女はたくさんの話題を振ってくれるけれど、僕は上手い返しができない。
なのに彼女は僕のとなりでいつものように笑う。
僕はそんな彼女に心を許し始めていた。

そして彼女と接する日々が3ヶ月続いたのち、彼女は言った。

「西條くんが好き。私と付き合って」

その言葉を聞いたとき、僕のなかで彼女がどれだけ大きな存在になっていたか気づいた。
そして僕はこくりと頷いた。


その日から彼女は僕を”優くん”と呼ぶようになった。

「優くんも私のことを”翔子”って呼んでよね」

彼女はそう言った。
でも僕の人生で女の子を下の名前で呼んだことはなく、気恥ずかしく思っていた。

「黛翔子さん」

フルネームで呼ぶのがいまの僕には限界だった。

「何でフルネーム?」

「…恥ずかしいので」

「”翔子”でしょ?」

「…慣れなくて」

僕がそう言うと彼女は”優くんらしい”と言って笑った。

彼女は僕にはもったいないくらいの魅力的な女性だった。
他にもたくさん素敵な男性はいるはずなのに。
何で僕なんか選んだのだろう。