「あんな感じで良かったですか。柏木寧々さん」

保健室から先生が顔を覗かせる。

「ええ…ありがとうございます。でもやりすぎです。キスするふりなんて」

「まあ良いじゃないですか。…ちょっとくらい意地悪しても」

「え?どういう…」

先生は昴に殴られたお腹の辺りを押さえながら、保健室へ再び入る。

「大丈夫ですか?お腹…」

「大丈夫といえば嘘になりますね」

「ごめんなさい…昴、力強いから」

先生はデスクの椅子へ座ると、私もソファに座るよう促す。

「それよりあなたこそ、大丈夫ですか?」

「はい、意外と。ずっと覚悟していたことですから」

「辛かったら泣いてもいいんですよ」

変人だと思っていたけれど、訂正。
西條先生は優しいわ。

「いいえ?悲しくないので大丈夫です」

「…本当素直じゃないですね」

「失礼ね」

その優しさに泣いてしまいそうよ。
ここにいたら駄目ね。

私は立ち上がって先生に背を向け、扉のほうへむかう。

「また保健室へ来たら、話聞きますよ」

ちょっと美々が先生に惹かれた理由がわかったわ。
私は先生のほうへ振り向いて言う。

「失恋が確定した場所なんて二度と来ないわ」

私はそう捨てゼリフを吐いて、笑って保健室をあとにした。