「ねえねえ、答えは聞けなかったけど、無視しないでこっち見てくれたよ〜」


さっきの女子は、他の子と一緒に、そんなことを話していた。


バカみたい。

あんな風に群れちゃって。

なんでも思いを共有しようだなんて、意味不明。

そんなくだらないこと話して、なんになるの?

理解できない。


私は、まっすぐ保健室に向かった。

途中、いろんな人に見られたけれど、保健室は一階だから、急いで駆け込んだ。





ガラッ……。


「はぁ……はぁ……」

「おぉ!珍しい。菫ちゃん、来てくれたんだ〜。ぁはは、良かった〜」

「勝手に名前呼ばないで。あんたのために来たわけじゃない。気持ち悪」

気持ち悪……。

「保健室の先生に言うことか〜?」

「保健室の先生が男なんて最悪」

「女の先生でも変わんないだろ?」

「当然」

人と関わりたくない私には、男も女も関係ない。


彼は、保健室の先生。

下田敏樹(シモダ トシキ)。

…………先生。


「来ないかと思ったよ〜」

「話しかけないで」

「冷たっ(泣)」


心がデリケートなのか知らないけど、やけに泣くことが多い先生。


…………泣き虫。


「あ!今、この先生泣き虫だって思ったでしょ!?」

「よくわかったね。おめでと」

「バカにしてる?」


私は、下田を無視して、ベッドに腰掛けると、そのままカーテンを閉めた。


「河村先生、すぐ来るって言ってたよ」

「あんたがプリント受け取って。私忙しいから」


河村先生とは、私のクラスの担任。


「ま〜たカーテン閉めちゃって〜。プリントぐらい自分で貰いなよ〜」

「無理」

「人任せにしてたら、人としてダメになっちゃうよ〜」

無視。

「無視しないで〜」



下田を無視したところで、私は自分のカバンに手を突っ込む。


今から出すのは、私がすぐに元気になる魔法の道具。


というメルヘンチックな言い方はさておき、本当に私が心から楽しいと思えるもの。