三次元なんか興味ない!

最後の勇気を、めいいっぱい振り絞り、男子生徒の前に立つ。


気配を消して……。

気付かれないように……。

大丈夫、きっと大丈夫。

二次元のキャラが付いてくれてると思えばいけるはず……。


ゆっくり腰を屈めて、左手を膝に当て、右手でシートを床に置く。

そうして、やっとの事で任務達成。

私の肩の力が少し抜ける。

普通の人間だったら、ここまでビビる必要はないかもしれない。

私だってわかってる。

ビクビクする程の事じゃないことは。

でも、過去が忘れられない。

もうあんな風になるのは嫌だ。


何、昔の事考えてんだろ……。

別に、思い出さなくていいことなのに。

忘れたいだけなのに……。


だけど、すでに脳裏に焼きついている私の過去の記憶を、今更剥がすのは実に困難で、自分でも諦めている部分はあると思う。





そんな、どうでもいいことを考えていたからだ。


「シー……ト?一体……誰が?」


本当に具合が悪いようで、途切れ途切れの声。

男子のくせに、弱々しい感じ。


しまった!

シートに気づかれたら、私も気づかれちゃう……。

早く、ベッドに戻らないと……。


私は、足音を忍ばせ、忍者になった気分で、歩く。

中学一年の時だが、あの時の私はかなり影が薄かった。


一年の時だけだけど……。


だから、きっと相手は私に気づかない。

もはや、今は影の薄さを武器にするしかない。

そう思い始めたら、なんだかうまくいく気がした。










それが、気の緩みに繋がっているとも知らずに……。





ガシッ……。

急に右手を掴まれる。

誰に掴まれたのかは、言うまでもない。


「えっと……もしかして、あなたが取ってきてくれたんですか?」


彼は、私の学年を知らなくて、気にしているのか、さっきからずっと敬語だ。


ていうか、バレた!?

気づかれてる!?


「あの、ありがとうございます。あっ!さっきお布団に入ってた人ですか?」


先程の唸り声は何処へやら、彼の声は生き生きしている。


「僕、唯木瞬っていいます。頭痛かったので、助かりました。ありがとうございます」


その時、彼の手に少し力が入った。

私もビックリして、何するの、と聞きたかったこともあり、錆び付いたロボットの如く、後ろを振り向く。


そこにいたのは、金髪でふわふわな髪、三次元にしては結構大きい紫の瞳。小柄で細身。上目遣いで、じっとこっちを見てくる、多分美少年?だった。


三次元の《かっこいい》《かわいい》の感覚がわからない私にとって、美少年かどうかも危うい。


「ご、ごめんなさい。ちょっと見惚れちゃって……」


口説くな!

そして、は、離せぇぇぇええ(泣)!