「久慈くん」
「久慈くん、これなんだけど」
「久慈くん、いる?」
私の頭の上を行き交う会話
久慈くんの名前を聞くのが
こんなにも苦痛になるなんて
思いもよらなかった
『麻里さん、私…必要なんでしょうか』
そうこぼしてしまったのは
珍しく麻里さんがランチを誘ってくれた日
専務は接待ゴルフでいない数日のある日
「久しぶりね、紗枝さんとランチ」
いつものように接してくれた麻里さん
だが、そのあとは何も言葉を発してくれず
私からの言葉を待っているかのように見えた
そして
堪らず出てしまった言葉がアレだ
言わされたのではなく
麻里さんが吐き出させてくれたのだ

