今度こそ、「迷惑」だと突き放されたら、立ち直れない気がした。
あんなに思いっきりた叩いたんだから、許して貰えるとは思えない。
右足は曲がり角で自然と玄関に向いた。
そしてただいま校門なわけで。
ぶつかっているのは、謝りたい気持ちと、たぶんこれは、面倒くさい気持ち。
色々と理由を付けて誤魔化しているけれど、分かってもらいたい相手に分かってもらえないのは悲しいから。
過去の私は、分かってもらえなかったから。
だから、分かってもらうことを諦めた。
足元の石ころを蹴飛ばしたら、道路脇の水路に吸い込まれていった。
人と向き合うのは疲れる。
というか、あの時で疲れた。
それからの私は逃げてばかりで。
何とも、誰とも向き合わないでここまで来た。
だから、そういう癖が付いて、私の気持ちを読んで音楽と向き合わせようとした東条くんを叩いたんだと思う。
あとは、負い目。
今更全部忘れて音楽を楽しむことが、私に許されるとは思えなかった。
でも、
―――……でも、彼の音に惹かれた。
もう一度彼の音を思い出すと、はっきりとわかる。わかってしまう。
私は、
「…音楽が、すき……っ」
どんなに抗っても、心は誤魔化せない。
今度は彼の声が聞こえた。
"どうしたいの?"
音楽がしたい。
トランペットが、吹きたい。
スカートの裾をぎゅっと掴んだ。
"好きにすれば"
思い返せば、彼は私の背中を押してくれていた。
立ち止まった場所から前に進めるように。
自分の気持ちに正直になれるように。
そして今、校門で立ち止まっている私。
私、いま、どうしたい?
謝りたい。会って、目を見て謝りたい。
その時、音が聞こえた。
この間の例の5小節。
でもそれは、私が聞いたことのある物とは違っていた。
遥かに切なく、出だしは消え入りそうに小さかった。
こんな曲ではなかったはずなのに。
元は、もっと優しくて安らかな、海の中みたいな雰囲気の曲。
そして、音もいくつかアレンジされていることに気がついて、勢いよく振り返った。
彼は、私に何かを伝えたいのかも知れない。
すると、
「っ……」
一つの窓から、金色の光が私の目に届いた。
私から見える校舎の2階の端っこ、そこは、いつも彼がいた教室。
彼は、こちらに向いて吹いていた。
……東条くんの言いたいこと、分かったかも知れない。
海の底に置き去りにされたような、でも、どこか傷を癒やす響きを持った音。
吹き終えてベルが下がった瞬間、私は走り出した。

