――――……p.m.2:00

気合いを入れ過ぎていないかと服装を何度も確認して、先輩を待っていた。


よくよく考えてみれば、私服でデートは初めて。


袖が七分のワンピースと、細革の腕時計、少しだけヒールのついたパンプス。

メイクも服装も、清楚な感じで纏めた。


……ちなみに、前読んだ雑誌で「夏は程よい露出が決め手!出しすぎは引かれちゃうかも!」って書かれていたのを参考にしてみたんだよね。


ふっふっふ~私服で先輩をメロメロにしちゃうぞ~~

と、企み笑顔で待っていると、あたしの名前が聞こえてきた。

聞こえてきた方を見ると、私服の先輩らしき人が。

白シャツに、ロールアップした黒のパンツ、半袖デニムジャケット、シルバーのタグネックレス。

シンプルさが、スタイルの良さと、ルックスの爽やかさを際立たせている。


イケメンは私服までイケメンなんて嘘だと思ってました……ごめんなさい……



「和香ちゃん?どうしたの~?」


眩しい白シャツと眩しい笑顔が目に刺さって、固まってしまった。

やだ、あたしったら!!

何か喋んなきゃ!!


「私服、オシャレですね…!!」

「あぁ、これ?姉貴がオシャレに煩くてさ、ほとんど姉貴の趣味だよ」

「ちょっと苦笑いの先輩も素敵だ…」

「…ん?和香ちゃん、心の声漏れてない?」

「っあ…!!」


慌てて手で口を抑えるけど、時既に遅し…

何やってんのあたし…は、恥ずかし……

耳のあたりから、じわじわと熱が広がる。

ひたすら、照れ笑いだけが漏れる。


「…ふっ、あははっ、本当、和香ちゃんって面白いよね」


やらかした…けど……先輩笑ってくれたんだし、いっか。

なんて、相変わらず脳天気なあたしだった。


それからのデートは、前のデートより数倍楽しかった。


服を褒められたのも嬉しかった。

ジェラートを食べはじめてからは、バニラが好きな先輩と、チョコが好きなあたしで、真剣な議論を繰り広げた。

結局、語彙力が底をついて引き分けに終わったけど、それも楽しかった。

バニラもなかなかに奥深い。

それから、スマホで写真を撮ったり、ゲーセンに入ったり、参考書を買いたい先輩に付いて本屋さんに寄ったり。

たくさん歩いて、たくさん笑った。



「今日はよく笑うね」

「そうですか?楽しいからですよ」

「ははっ、和香ちゃんは本当素直だよね」


もうすぐ日が暮れる頃、あたしたちは駅で帰りの電車を待っていた。

あたしは下りで先輩は上り。

だから、ここでお別れ。

先輩は、家まで送ると言ってくれたけど、さすがに明日も補修がある先輩を逆方向の電車に乗せるわけには行かないからと、なんとか断った。

……でもなんだか寂しくて、少し声が小さくなった。


「ん~…そうでも無いですよ?結構、意地張っちゃうこともあります」


特に、肇には、意地張ってばっかり。

……風邪、大丈夫かな。辛くないかな。

夏風邪って辛いし、ちょっと心配。

…あ、でも嘘かも知れない。


「そっか……ちょっと見たいな」

「えぇ?」

「いろんな顔、見せて」


なんとなく先輩の顔が見たくなって、そちら側を見上げると、先輩の黒髪が夕暮れに透けて、茶色になっていた。

長いまつ毛も少しだけ茶色に透けている。

白い肌に、よく映える。



あまりに綺麗で見惚れていると、透明な茶色が近づいてきて、唇の近くに柔らかい温もりが落ちた。


驚いて固まるしか出来ないあたしの目の前に、ちょうど電車が止まる。

はっとすると、先輩が笑顔で手を振っていた。


夕暮れ時の、一瞬の出来事だった。