翌朝目覚めると、何故かベッドにいて。

起き上がったら頭に鈍痛が響いて、思わず手をやって顔をしかめた。

泣きすぎると次の日に響くのは、昔から変わらない。


あの後、あたし……

ドアにもたれかかって泣いて…そこで記憶は途切れているから、たぶん運んでくれた人がいた。

…そんなの、一人しかいないじゃん。

くそ真面目だから、また謝ろうとここまで来て、寝ていたあたしを運んでくれたんだろう。

……本当、泣きたくなるくらいくそ真面目。

思わず苦笑が漏れる。

まだ、あの時の熱が離れない。

布団を握りしめた。

目元が腫れぼったい…たぶん、顔は酷いんだろう。

胸に溜まった鉛のような感情を解き放ちたくて、ため息を吐いた。

それで、すっきり流れていくようなものではなかったけれど。


……これからどうすればいいんだろう。

気づいてしまった気持ちに蓋をし続けられる自信が、どうにも湧かない。

あたし、彼氏がいるのに。
あんなにイケメンで優しくて理想の彼氏がいるのに。

……ううん、理想"だった"。

もう今は、自分自身が何を考えているのかも分からない。

あたしの、あたしたちの前提が崩れてしまったから。

あたしたちは幼なじみで、それ以外ではないという、その前提が崩れてしまったから。

距離感が、わからなくなったんだ。

誰よりも近かったはずなのに、それ以上に近づいたら呆気無く見失った。

前髪をくしゃりと掴んだ。




……シャワー、浴びたい。

よく考えてみれば化粧だって落としてないし、めちゃくちゃ汗かいてる。

この問題はひとまず置いておいてシャワー浴びよう。


階下に降りると、ふと気になってリビングを覗いた。

ソファには、畳まれた毛布が一枚。

テーブルの上には、メモが一枚。


勝手にメモとペン借りた。
看病ありがとう。
だいぶ楽になったから帰る。


男子とは思えない、見慣れた、整った字。

あまり愛想のない文面。

そのメモから肇を感じて、なんとなく苦しくなる。

こんなあたしって、バカみたい?


「……ごめん」


文の一番最後、少しだけ離されて書かれていた小さな謝罪。

それは、何のごめんなの…?

昨日は少しだけ元のあたしたちに戻れた気がしたのに、振り出しどころか、更に遠のいている気がした。


肩を落として、肇が寝ていたソファにぽすんと座りこんで、そのまま横に倒れた。

ほんのり肇の匂いがして、胸が高鳴って、心が落ち着く。

わかってみれば、これほどまでに簡単なことで。

いつから好きだったかは分からないけれど、たぶん相当前から好きだった。

口が悪くて冷たいようで、本当は底まで真面目で、面倒見がいい肇のこと。


ぎゅっと目をつむる。

このままじゃ、いけないよね…?

肇を想いながら先輩と付き合うなんて不誠実なことは、やめなくちゃいけない。

自分だけがぬるま湯に浸かって、ふわふわと浮いていることなんて許されない。

ちゃんと、けじめを付けなきゃ。



静かな決意を胸に、シャワーを浴びにお風呂場へと向かった。