「……あ、帰ってきた」
ちょうど作業が終わったのか、大きい伸びをしながら私を見た仁は"おかえりー"と眠そうに言った。
「なんで断ったの?」
私の返事も聞かずに断ったと決めつけてしまうあたり流石仁さんですね。
「私まだ何も言ってないんだけど」
「言わなくてもアンタの顔で分かるっつーの」
「あ、そう」
それだけ言って断った理由は答えないでおく。
だってちゃんとした応えなんてきっとないもん。
いや、敢えて言えば、気になる人がいるから。本当にそれだけだった。
だけど仁はそんな事言わなくても分かってるだろうし。私の口から"あの人が好き"って言わせたいだけだろうし。
分かってるからこそ絶対言ってやんないけど。
「……なんで話しかけないの」
質問じゃない。だけどどこか不思議そうに聞いてきた仁に私は少しだけ考える。
話しかけない理由……。なんだろう…。
「アンタみたいな奴に話しかけられれば誰だってイチコロじゃないの?」
「あれ、仁が褒めてくれるなんて珍しい」
「褒めてませーん。嫌味でーす」
片方の口角をあげて意地悪そうな笑を浮かべる仁に私もついつい笑ってしまう。


