離れていくその手がとても恋しかった。
離さないで。
離れないで。
私を、離さないで――……。
柄にもないことを言葉にしようとした時、窪原くんの方が先に口を開いた。
「名前で呼べよ」
「…えっ」
「俺のことも、名前で呼べよ」
「……っ…うん」
力なく頷いた私を見てどこか嬉しそうな顔。
やめて。そんな顔しないで。
止められなくなる。
好きが溢れてくる。
まだ、まだ、言いたくないの……。
友達なんだから。
突然好きだなんて…そんなのありえないじゃない……。
そう思うのに、私の大好きな笑顔を見てしまえば終わりだ。
溢れそうになる"好き"を抑える代わりに零れた涙。
「――泣くな馬鹿…」
優しく触れたその手が好き。
私を慰めるその声が好き。
困ったように笑うその顔が好き。
「じゃあ……慰めたら…?」
強がりしか言えない私だけど。
強がる事しかできない私だけど。
自分の気持ちを抑えるのに必死なのよ。
だから許して。
「俺が……笑わせてやるから…」
「………ウソツキ…」
「…なんでだよ……」
私のこと嫌いって言った。
それに、今私が泣いてるのは他の誰でもないアンタのせいなのよ。


