「凛」



"行け"。口パクでも分かる仁の言葉。


行けって言われても……。どうしろと…。


戸惑いを隠せない私を見て少しイラッとした様子の仁が動く。しかも、私の腕を掴んで。



「窪原」

「っ、何……」



冷めた声。そっけない。嫌々。


悪い言葉しか当てはまらないくらい見るからに嫌そうな声音の彼。


だけどその瞳の奥はどこか寂しげに見える。


―――……なんて、私の都合良い解釈にしか過ぎないけど。


だって。



「窪原さぁ、凛を前にしても態度変わんないよね」

「……どういう意味?」

「こんなんでも"100年に1度の美少女"とか言われてるの知ってる?」

「知らないわけないだろ…」

「それなのに態度変わんないの窪原くらいだよ」

「そんな事ねぇよ」



だって……ちゃんと応えてくれるもん。


本当に私たちが、私が嫌いなら、適当に応えてすぐ帰ることも出来る。


それでも彼は、窪原くんはいつだってちゃんと応えてくれる。


私から話しかけたことなんてないけど。


いつも仁が話しかけて私はそこにいるだけ。