思い出の空

 メモリーズで二時間ほど勉強して、俺たちは帰り道を歩いていた。陽子の家はメモリーズから近いので、陽子を送り届けてから帰宅するのがいつものパターンだ。

 パラパラと雪が降っていて、七時を過ぎていることもあってとても寒い。陽子と繋いでいる右手だけが唯一暖かい。

「今日さ、恭二がデートスポット色々調べてくれたんだよ」

「相変わらずだね」

 恭二も同じような反応をしていたなと思い出す。陽子と恭二は、俺を通じて何度か会ったことがある。俺が二人のことをよく話すものだから、そんなに会っていないのに友達のような感覚になっているようだ。

「なぜかハッテン場をすすめられた」

「なにそれ」

 クスクスと陽子は笑う。

「まあ、他にも何カ所も調べてきてくれてたんだけどな。せっかくだし、普段全然行かないところにしようかと思ったんだけど、いい?」

「大丈夫だよ。遠すぎなければ」

「ちょっと遠いけど、電車賃は出すから。誕生日だし」

「いいの?」

「年に一回くらい贅沢したまえ」

「ありがと。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」

 そう言って、陽子は体を俺に寄せてきた。正直歩きづらいが、可愛いからこのままで。

「ねえ、さっきさ、やりたいことないって言ったじゃない」

「言ってたな」

「でも、一個だけあった」

「お、なになに?」

「ずっと空と一緒にいたい」

「……」

「手、ちょっと汗ばんだね」

 いたずらっぽく笑う陽子の顔は、赤らんでいて、目がうるうるとしていた。恥ずかしいこと言うの苦手なくせに、無理するからそんな風になるのだ。

 そこが可愛い。

「俺は、陽子のために勉強頑張るよ。良い大学出て、良い会社就職して、そうしたら一緒に住もう」

「将来性のある男は安心できます」

「なぜに敬語」

「照れてるんです。察してください」

「察してるよ」

「いじわる」

 顔を見合わせ、笑い合う。

 陽子とだったら、ずっとずっと一緒にいられる、そんな気がする。この幸せは、誰にもわけてやらない。