思い出の空

 学校に到着し、『2―6』の札が貼られている教室に入ると、クラスメイトがちらほらと、好きなように過ごしていた。

 各々声をかけてくる中、そのうちの一人が、

「おっすおっすおっす」

 とやたら元気に絡んできた。

 菅野恭二。短髪で恰幅がよく、見た目からしてスポーツマンのこの男は、俺の高校からの友人である。所謂ムードメーカーというやつで、クラスの人気者である。

「よう」

 俺が席に着くと、恭二は前の席の机に座った。

「北高の生徒、行方不明になったんだってな」

「そうみたいだな。陽子に聞いたら、そうなの? だってさ」

「相変わらずみたいだな」

 苦笑して見せる恭二。

「今度陽子ちゃんと行くとこ、結局決まったのか?」

「いや、まだ」

 来週、二十一日は陽子の誕生日だ。せっかくだからどこか一緒に行こうかと思っているのだが、なかなか場所が決まらないでいる。

「どこかいいところないかな」

「そんなことだろうと思って、調べておいた」

 恭二はスマホを取り出して、画面を俺に見せてきた。そこには、いくつか店の名前と、簡単な住所がうつっていた。

「安価で比較的近くて、そこそこ美味しいと評判の店」

 よくよく画面を見てみると、それぞれに、『雰囲気よさげ』『おっさん多めだから微妙?』などと一言コメントが書かれている。ずいぶんと調べてくれたみたいだ。

「それだけじゃないぞ」

 そういって、恭二は画面をスライドさせた。画面が切り替わると、今度はオススメデートスポット、と一番上に書かれていて、その下には公園の名前などが並んでいる。こちらもそれぞれ一言コメントがついており、『夜景が綺麗』『とにかく広い』『ハッテン場』――。

「おい、ハッテン場ってなんだよ」

 俺は笑いながら軽く恭二の膝を小突いた。

「冗談だよ、冗談」

 ハッテン場なのは本当だけどな、と付け加えて恭二は盛大に笑った。俺も自然と声を出して笑った。

「ちなみにこのハッテン場、前にハッテン場って知らないで彼女を連れてったら、めちゃくちゃ怒られた。その上で振られた」

「おもてえよ」

 気軽に笑えなくなるじゃないか。

 その後、恭二が調べてきてくれた店を二人で見て、詳細を調べなおしたりしながら過ごしていた。いつの間にか三十分くらい経っていて、その頃にはデート先も決まっていた。

「ありがとな」

「別にいいよ。調べんの意外と楽しかったし」

 こちらから頼んだわけでもないのに、何気なく話したことでも恭二はちゃんと覚えていて、色々と教えてくれる。まだ友達になって二年も経っていないが、恭二は俺の数少ない相談相手の一人だ。

 ホームルームの時間を告げるチャイムが鳴った。