思い出の空

 冷静さを欠いていたとは思えない。

 寝坊をしていたのは事実だし、急いでいたのも言うまでもないけれど、だからと言って周りを確認もせずに走るようなことはしていなかった。

 だから、今のこの状況を作り出したのは、俺ではなく、あのトラックの運転手だったのだろう。あの人こそが、冷静さを欠いていたのだろう。

 まあ、それを責めたところで状況は変わらないが。

 俺は、トラックに撥ねられていた。

 にわかには信じがたいが、体に走る痛みが現実であることを教えてくれる。

 そして、その痛みが段々と引いていく事で、俺がもう死ぬところであることを悟る。

 状況に反して頭は冷静だ。

 それは、周りの音が聞こえないせいかもしれない。ただただ静かな世界。

 目に見えるのは白い雪。そして、その間から見える小さな光。

 なんて、綺麗な空だろうか。死に際にみるには惜しい絶景だ。

 この光の先に待つのは、どんな世界なのだろう。

 そこには、俺より先に死んでしまった兄がいるのだろうか。それとも、姉だったのか。結局それも母さんに聞けなかった。

 ――そう、そこには、母さんはいない。友達もいない。

 そして、陽子もいない。

 悲しい。悔しくもある。どうしようもなく切なくもある。

 小さな光が、少しずつ大きくなっていく。

 そして、俺を迎え入れるかのように、その光はあたり一面に広がった。