思い出の空

 俺は一人っ子だ。仲の良い友達も一人っ子が多かったからか、兄弟がほしいと思ったことはあまりない。母さんが愛情込めて育ててくれたのも原因の一つだろう。

 それでもやはり、映画やテレビを観ていると、時々兄弟愛というものが羨ましく感じることもあった。

 そのような感情を抱き始めたのは、俺が小学校の中学年くらいの頃だったと思う。

 その歳になると、少しずつ家の家計だとか、教育の大変さなんかが分かってくるものだ。もう少し早くそのような感情が芽生えていたのならば、恐らく俺は母さんに、兄弟がほしいと話すこともあったと思う。

「ねえ、空。空は、兄弟がほしいとか、思ったことってある?」

 だから、母さんからそんな話題を振ってきた時は、驚いた。

 驚いて五秒くらい母さんを見たまま固まってしまったくらいだ。

 俺は、うーん、と唸りながら答えを考えた。

 当時の俺は、所謂ませがきの部類に入る子供で、ドラマなんかも見たりしていた。その影響もあってか、素直に気持ちをそのまま伝えることをあまりしなかった。
 それは、この時もそうだった。

「母さんは、どうなの?」

 と。逆に質問を返した。

「お母さんは……どうだろう、分からないな」

 母さんは苦笑してそう言った。

 俺は、そう、とだけ返事をして、自分の部屋に戻った。

 素直に気持ちを伝えられない――俺はこの時本当は、兄弟がほしい、と言いたかった。

 いないよりは、いた方がいい。

 それに、この時の母さんの表情は、なんというか、寂しさの溢れた顔だった。だから、俺は母さんのためにも、欲しいというべきだったのかもしれない。

 まあ、結果論だ。

 そしてこの時、俺はなんとなく我が家の事情を知ることになった。

 母さんのお腹にある切開の痕。

 きっと俺は、一人目ではなかったのだ。