「……まずい、寝坊した」
時計を見て焦る俺。急いで下に降りて顔を洗う。
「おはよう」
母さんがのんきに声をかけてくる。
「起こしてくれてもいいじゃん」
「お母さんも忙しいの」
母さんの言うことはもっともだったし、何より急いでいるのでそれ以上の言い合いはせずにまた自室に戻る。
高校生を二年も続けているが、急いでいる時に制服に着替えるのは面倒だ。ワイシャツのボタンを留め、ベルトを装着し、ネクタイを結ぶ。一連の動作は慣れてはいるが、速くしようと思ったら当然雑になる。
しかしうだうだ文句は言ってられない。
鏡でネクタイの位置も確認せずに、俺は駆け足で玄関に向かう。
「いってきます」
「ごはんは?」
母さんの問いかけをスルーして、俺は家を飛び出した。
走りながら、陽子にメッセージを送る。
『寝坊なう』
今日は陽子とは別の電車になるだろう。急いでもこの時間だとぎりぎり間に合わなそうだ。
間に合わないならあきらめて歩いてもいいのだが、ここまで急いだのだ。せっかくだからこのまま急いで、運が良ければ陽子と会える。
粉雪程度だから、電車が止まることはないだろうけど、乗る人が多くて遅れる可能性がないこともないはずだ。
急ぎつつも、信号を見て安全を確認しながら駅へ向かう。
急いでて事故にでもあったら大変だ――。
横を向いた瞬間、頭を過った単語は、『フラグ』だった。
眼前にトラック。
一瞬時が止まったかのような感覚に見舞われ、その一瞬が終わると同時に激痛が身体に走った。
トラックに撥ねられた。
信号、青だったよな?
確認しようとするが、もはや確認出来る位置にいない。そもそも視界がめちゃくちゃぼやけている。
目の悪いじいちゃんばあちゃんって、こんな感じなのか? そんなどうでもいいことを考える。
体に何度も衝撃が走り、ようやく俺の体が転がるのをやめた時には、俺の視界は白一色になっていた。
周りから音が聞こえる。かろうじて、それが人の声だと分かるが、何を言っているのかはさっぱりわからない。
目に続いて、耳もだめになっているのか。
微かに聞こえている音も、どんどん小さくなっていく。それに比例するように、体の感覚も薄れていく。
嘘だろ、こんなの。
嘘だと思いたい。けれど、体の痛みが、これは現実だと非情にも伝えてくる。
この痛みが引いた時、きっと俺は死んでしまうのだろう。
寝坊しなければ、こんな事故に遭わずに済んだのに。どうして、たまたま寝坊した今日に限ってこんなことが起きたんだ。
恭二と遊ぶ約束したのに。
来週は、陽子の誕生日を祝ってやる予定だったのに。
頬を涙が伝っていく。冷えていく体を、唯一その涙だけは温かくしてくれた。
しかし、その涙も外の寒さで冷えていく。ぬくもりは一瞬で消えた。
体の感覚が、消えた。
視界が、白から黒に移り変わっていく。
ああ、せめて、せめて最後に一度だけでいい。
もう一度、皆に会いたい。
時計を見て焦る俺。急いで下に降りて顔を洗う。
「おはよう」
母さんがのんきに声をかけてくる。
「起こしてくれてもいいじゃん」
「お母さんも忙しいの」
母さんの言うことはもっともだったし、何より急いでいるのでそれ以上の言い合いはせずにまた自室に戻る。
高校生を二年も続けているが、急いでいる時に制服に着替えるのは面倒だ。ワイシャツのボタンを留め、ベルトを装着し、ネクタイを結ぶ。一連の動作は慣れてはいるが、速くしようと思ったら当然雑になる。
しかしうだうだ文句は言ってられない。
鏡でネクタイの位置も確認せずに、俺は駆け足で玄関に向かう。
「いってきます」
「ごはんは?」
母さんの問いかけをスルーして、俺は家を飛び出した。
走りながら、陽子にメッセージを送る。
『寝坊なう』
今日は陽子とは別の電車になるだろう。急いでもこの時間だとぎりぎり間に合わなそうだ。
間に合わないならあきらめて歩いてもいいのだが、ここまで急いだのだ。せっかくだからこのまま急いで、運が良ければ陽子と会える。
粉雪程度だから、電車が止まることはないだろうけど、乗る人が多くて遅れる可能性がないこともないはずだ。
急ぎつつも、信号を見て安全を確認しながら駅へ向かう。
急いでて事故にでもあったら大変だ――。
横を向いた瞬間、頭を過った単語は、『フラグ』だった。
眼前にトラック。
一瞬時が止まったかのような感覚に見舞われ、その一瞬が終わると同時に激痛が身体に走った。
トラックに撥ねられた。
信号、青だったよな?
確認しようとするが、もはや確認出来る位置にいない。そもそも視界がめちゃくちゃぼやけている。
目の悪いじいちゃんばあちゃんって、こんな感じなのか? そんなどうでもいいことを考える。
体に何度も衝撃が走り、ようやく俺の体が転がるのをやめた時には、俺の視界は白一色になっていた。
周りから音が聞こえる。かろうじて、それが人の声だと分かるが、何を言っているのかはさっぱりわからない。
目に続いて、耳もだめになっているのか。
微かに聞こえている音も、どんどん小さくなっていく。それに比例するように、体の感覚も薄れていく。
嘘だろ、こんなの。
嘘だと思いたい。けれど、体の痛みが、これは現実だと非情にも伝えてくる。
この痛みが引いた時、きっと俺は死んでしまうのだろう。
寝坊しなければ、こんな事故に遭わずに済んだのに。どうして、たまたま寝坊した今日に限ってこんなことが起きたんだ。
恭二と遊ぶ約束したのに。
来週は、陽子の誕生日を祝ってやる予定だったのに。
頬を涙が伝っていく。冷えていく体を、唯一その涙だけは温かくしてくれた。
しかし、その涙も外の寒さで冷えていく。ぬくもりは一瞬で消えた。
体の感覚が、消えた。
視界が、白から黒に移り変わっていく。
ああ、せめて、せめて最後に一度だけでいい。
もう一度、皆に会いたい。
