思い出の空

 とある冬の日。

「近々、陽子の誕生日なんだ」

 体育の授業のフリータイム中、俺と恭二は体育館の隅でぼんやり周りを眺めながら談笑していた。

「あー、そういえばこの時期だったな」

 去年も似たような会話を、同じく体育館でしていたような覚えがある。恭二も覚えていたようだ。

「今回は割とお金貯めておいたから、どこか良いところ行きたいと思ってるんだよな」

「へえ、予算どのくらいあんの?」

「五万は出せる」

「旅行でも行くのかよ」

 失笑されてしまった。まあ確かに、一日のデートに五万も出すなんて、陽子の分を出すにしても多すぎるかもしれない。

「安いに越したことはないんだけど、せっかくの誕生日だし」

「あんまり高いところにしたら、逆に気を遣うんじゃないか?」

「あー、確かに。考えてなかったな」

 たかだか高校生の分際で、背伸びしすぎだったか。

「本当に旅行に行くってのもありではあると思うけど」

「旅行は来年行こうって話してるから、今年はいいかな」

「そうか。だったら、水族館、動物園、コンサート、映画……金はあるからどこでも行けるな」

「そう。だから逆に困ってる」

 短期バイトの給料を丸々残していたから、いつも空である俺の口座が珍しく潤っているのだ。お金があればなんでも買えるなんて考えていたが、何に使うかお金がない時以上に困るとは思わなかった。

「デート自体は安めのところにして、何かプレゼントあげるとかでもいいんじゃね」

「おお、それもありだな」

「あと、期末試験で満点取るとか」

「お母さんかよ」

「でも喜ぶだろ」

「プレゼント渡すより喜ばれそうだな……」

 陽子ならあり得る。プレゼントを渡す時に、「ありがとう。これで試験もいい点取ってくれたら最高だなあ」とか言いそうだ。

 いや、さすがにないか。

「ご飯だけでも美味しいところ連れて行ってやりたいな」

「昼飯?」

「うん。時間あったら夜も食べて帰ろうかなって思ってる」

「そうか」

 そこでこの話題は終わった。



 そして後日、恭二はわざわざデートスポットや、安めで美味しい店を調べてきてくれた。持つべきものは友達という言葉、まさにその通りだ。

 俺はカフェで陽子と勉強した後、まっすぐ家に帰っていた。

 晩飯を食べ終え、スマホの画面をつけてみる。通知が一件、恭二からだった。

『今週の土曜、どこか遊びに行かね?』

 俺は画面をスライドさせ、アプリを起動させた。

『いいよ』

 俺のメッセージは、すぐに“既読”になった。そこから先は、チャットでもしているかのようにメッセージが流れていった。

『カラオケでも行く?』

『最近行ってなかったなー。たまにはいいかも』

『じゃあカラオケな』

『おっけー』

『陽子ちゃんへのラブソングの練習な』

『それはないな』

『いいじゃん、歌で愛を届けます的な』

『きもくないか』

『フラッシュモブみたいな感じ』

『俺あれ嫌いだわ』

『俺も』

『なんで提案したんだよ』

『いやがらせ』

『明日覚えとけよ』

『あいらぶゆー』

『きもいっつーの』

『許してチョーダイ!』

 くだらないメッセージに、俺は笑いながら返信する。恭二はいったいどんな顔で読んでいるのやら。

 その後もしばらくやり取りは続き、恭二からのメッセージが途絶えたところで俺も寝る準備をした。恐らく恭二は寝落ちしたのだろう。

 明日はさっきのやり取りのことを少しいじってやろう。きっと阿呆みたいな返しをするに違いない。俺はニヤニヤしながら電気を消した。