思い出の空

「昨日、陽子と喧嘩した」

 登校するなり、俺は開口一番恭二にそんな話を振ってみた。

 恭二は目を点にして俺のことを数秒みたあと、

「なにゆえ?」

 と首をかしげて言った。

「んー、ざっくり言うと、俺がバカだからだな」

「ざっくりすぎやしないかね」

「長くなるぞ」

「暇だしいいんじゃね」

「それもそうだ」

 と、そんな前置きをしてから、俺の長話は始まった。

 昨日陽子と一緒に下校している時に、特に何かあったわけでもなかったが、勉強の話しになった。勉強して良い大学に行かないとだめだとか、毎日予習復習は当たり前だとか、若干説教じみたことを言われた。

 それについて俺が怒ったわけではない。ただ、それに対する俺の返答がよくなかった。俺はバカだから、勉強したって大したことはできない。てきとうな大学に入って、普通の会社員になるよ、というようなことを言ったのだ。

 そうしたら、陽子はキレた。そう、なんと喧嘩を始めたのは陽子の方からだった。陽子は怒るようなタイプの人じゃないから正直驚いた。

 努力どころか努力をする努力もしていないくせに何を言っているの、だとか、何の目標もないなら大学なんて行かなきゃいいじゃない、などなど、これまた至極まともなことを述べていた。これに対して言い返す言葉があるのなら、それは屁理屈しかない。

 だから俺は屁理屈を並べた。バカバカしさ丸出しの屁理屈である。

 そうしたら、陽子は尚更キレた。キレて、そこで分かったことは、陽子は怒るほど頭の回転が速くなるということだ。

 俺の頭が処理できなくなるくらいに言葉責めをされ、俺はひたすらに平謝りするほかなかった。そうして陽子の怒りがおさまった時、こんな提案をされた。

 一人で努力出来ないなら、二人で努力したらいい、と。

 涙が出るかと思った。いや、怒られてる時点で泣きそうだったのだが。本当に怖かった。飴と鞭とはこのことだろう。俺は心の底から陽子を好きになってよかったと思った。

「おわり」

「結局のろけ話じゃねえか」

 それまで真面目に聞いていた恭二が、やれやれといったように肩をすくめて言った。

「こんな話出来るの、恭二くらいしかいないんだよ」

「友達いないのか?」

「いや、いるだろ。お前も知ってるだろ」

「分かってるよ。冗談だよ、冗談。本当、羨ましいくらい仲良いよな、お前ら」

 そんな会話を繰り広げる。

 いつもの事。何の変哲もない、ただの男子高校生の日常だ。

 それが良い。何の変化がなくとも、こうして日々を健康に過ごせている、それだけで十分だ。十分すぎるほど、幸せだ。