『有り難う。水城くんのおかげで作家人生初めてここまで売れたよ。冥土の土産かな。』
『…止めて下さいよ。冥土の土産だなんて……』
水城くん、君のおかげだ。
君が編集者だったから。
藤田先生は、やっぱり気付いていて決定的な事は言わなかったけど、しきりにそんな言葉ばかりを言っていた。
藤田登 68歳。
俺が初めて担当した作家は、俺が担当編集した小説で作家人生に終止符を自分の手で完結させた。
帰り道、俺は内ポケットから突き出すはずだった退職願いを2つに破った。
もう少し、足掻いてみよう。
辞めるのは、それからでもいい。
編集者の仕事は、そう嫌な事だけじゃなかったな……。
