『俺くらいになれば、そんな事も可愛く見えるようになる。伊達に年取ってねぇからな』



最後に、煙草をふかし灰皿に落とした水城さんはさらっとそう言ってのけると相崎さんの横を通り過ぎていった。




えっ?何で最後の最後であたし置いていくの?




呑気に、そんな事を考えていたあたしは水城さんの言った言葉を然程気にせず慌ててその後を追った。





「ちょ、ちょっと水城さん!置いていかないで下さいよ」



食べかけのコッペパン片手に小走りで近寄れば、盛大なため息をお見舞いされた。




『お前、、、ああ、そうだよなぁ…』



「はい?」



『いや、別に』



スタスタと歩く水城さんの横で、もぐもぐと食べ続けるあたし。


「あ!水城さん、先程はありがとうございました。小芝いに付き合ってもらって……びっくりしましたけど」


『……………………』



水城さんは、何も言わずちらっと横目で見てまたすぐに目線を前に向けた。




「……水城さん?」



『お前、編集者失格』



「はっ?」



『あれが小芝いだと思ってんなら、編集者見習いからやり直しだ。俺も暇じゃねぇんだアホ』





遠くで聞こえる小さい車の音。

夜の静けさと澄んだ空気。

コツコツとアスファルトから響く靴底が当たる音。

空には、三日月がニッコリ笑ってるように見えた。