しばらくすると手ぶらで可奈が出てきた。

「川があるの、近くに。

桜の木があるから木陰もあって、涼しいから、、、

そこ、行かない、、、?」

「あ、うん。」


ふたりで黙ってその桜のところに行った。

ベンチに座る。

ちょっと間をあけて。


可奈が口を開いた。

「で、何?」

「あ、うん。


あの、私、可奈に手紙書きたかったの。

でも、できなくて。


あの、、、ね。

傷つけちゃったらごめん。

私、記憶が、、、ないの。」

可奈がぽかんと口を開けてこちらを見ている。

慌てて付け足す。

「もちろん、全部忘れたわけじゃないよ?

忘れたのは、1年分。

中1の入学式から3月の終わりまで。

その間の記憶が、、全く、、、ないの。」