そうして私は名前も知らない彼とカフェに行った。

「どう?そのコーヒー!美味しくない!?」

「・・・」

うん、確かに美味しい。

「あ!だよねぇ!美味しいよねぇ!」

「…私なにも言ってないんですけど」

「だって美味しいって顔してるもん!」

私はこの人といると調子が狂う。

少し苦手なタイプの人間だ。

「あの」

「ん?」

正直、関わりたくない。

「名前を教えてください」

「あぁ!名乗ってなかったね!俺の名前は…」

彼はダカダカダカ…とドラムロールをして言った。

「華山俊!!!」

「…華山…先輩?」

華山…なんかすごく綺麗な苗字だ。

「うん。俺は君の先輩だ!2年生だからね!」
「へー」

「え!先輩に対してその言い方酷くない!?」

すごく、犬っぽい人だな。

「ところで、なんであの時私の名前知ってたんですか?」

「え!スルー!?……え…それ、本気で言ってるの?」

急に華山先輩の態度が変わった。

「…どういう意味ですか?」

「・・・んにゃ、やっぱ何でもない!」

「…?」

コロコロと表情が変わる華山先輩についていけない。

「いや、名前もなにも、名札見ればいいだけじゃん」

「…!」

かぁっとなった。

そうか、名札を見れば苗字くらいはわかるんだ…

「え!?どうしたの!?顔、赤いよ!?」

「う、うるさいです!」

「え、なに!?俺なんかした!?」

「い、いいんです!」

ちょっと恥ずかしくなった。

ーー自分が馬鹿だって言った様なものじゃん!

「え?ちょ、大丈夫!?」

「ふぅ…はぁ…」

深呼吸する。

よく考えればこの人は気づいてない。

それに、この人の方が馬鹿っぽいじゃないか。

そう言い訳して落ち着かせる。

「取り乱してすみません。一応言っておきますけど、私、馬鹿じゃないので!」

「…え?あぁうん。そっか(馬鹿なんだ…)」

「あ、今、私の事馬鹿って思いました?」

「え?ううん!思ってないよ!」

「ふーん?」

「ほんとに!」

必死に弁解する華山先輩を見てると…

「…ふふっ」

「あ!い、今笑った!」

「!?」


楽しいとは思ってない。絶対に。