「親とかいないから。安心して入っていいよ」

うながされるがままに私は、華山先輩の家に入る。

「シャワーとか浴びとく?」

「え、や、大丈夫…です」

シャワー!?さすがに悪い…

「え!なに!?緊張してるの!?」

「…殴りますよ?」

華山先輩がソファに座ってぽんぽんとソファを叩いたので、私は無言でソファに座る。

いつもより華山先輩と距離が近くて、ちょっとだけ変な感じがする。

「・・・」

「・・・」

何故か無言が続いた。

私はそれの方がいいけど。

時計を見たら、四時過ぎだった。

ーーまだ時間に余裕はある。

どこかにほっとしてる自分がいた。

先輩の部屋を観察していると、不意に先輩が口を開いた。

「あのさ」

「…なんですか?」

「・・・」

先輩は私の目をじっと見つめた。

ーー私、なんかしたっけ?

怒らせるようなことはしてないはず。

「どうしたんで…」

「いい加減さ、苗字で呼ぶのなめない?あと、敬語使うのも」

「…え?」

先輩が余りにも真面目に言うから少し驚く。

でも…

「いい加減も何も、私達一昨日出会ったばっかりですよ」

「…!」

すると先輩は「やっちまった〜!」と言って頭を抱えた。

「は?」

ますます混乱する。

いったい何が言いたいんだろうか。

「うわー」っと言った先輩に、「先輩?」と言ってみる。

「あぁ〜さっき、めっちゃカッコよく言ったのにぃ〜」

「…は?」

「いや、さっきのは気にしないで」

「…そうですか」

また沈黙になる(先輩が頭を抱えてなんか言ってるけど)。

涙を垂らしそうな(何故そこまで?)先輩が正直うざったかったので、私は言ってみた。


「俊先輩」

「えっ」

先輩がビックリしてる。

「…なんですか?無視するんですか?…先輩冷たいですね」

「いやいやいやいやいや!ありがとう!それでいいよっ!」

先輩の表情の変わりように笑いたくなるのを抑える。

「ありがとうございます。あ、でも敬語のほうが私好きなんでタメ語はあまりしたくないです」

「へぇ〜」

知ってるけどと先輩が呟いた声は誰の耳にも届かなかった。

「先輩ってモテるんですか?」

「え、なに?もしかして俺のこと好きなの…?」

「殴りましょうか?」

「冗談だよ!冗談!!」

ふはははっとほんの少しだけ笑ってみる。

先輩も笑ってた。

「お前って面白いな」

優しい笑顔で俊先輩は言った。

少しドキッとしたのは、褒められたから。

うん、そう。それ以外な訳ない。

「え、大丈夫?顔赤ぇよ?熱あんの!?」

「…!」

どうやら今の私は顔が赤いらしい。

「せ、先輩のせいですよ!ていうか、先輩に面白いって言われたくないです!」

「はぁ!?どういう意味だよっ!」

「そのまんまです」

「この失礼な後輩めがっ!」

先輩は私に掴みかかってくる。

「うわ、セクハラ…」

「え、ごめんごめんごめん!」

俊先輩といると私は何故か笑顔になるみたいだ。

正直、もっと俊先輩が知りたいと思った。


ーーー私に対する嫌がらせは悪化するかも


まぁ、そんなのはどうでもいいや。

今はこの時間を、有意義に過ごそう。