「あ"~」
うん、だめだこりゃ。
今日は6月の終わり。
季節の変わり目と言うやつで、ここのところ大雨と晴天をいったりきたり。
「あ"~」
もう一度声を出してみても、やっぱりいつも通りじゃない。
うーん、やっぱり風邪かなぁ?
だるい頭と重いからだをなんとか動かして、大学に連絡をいれる。
薬を探す余裕もない。
あー、子どもの頃以外だ、こんな風邪ひいたの。
私は殺風景な部屋においてあるシンプルなベットに倒れた。なんとかエアコンをいれる。電気代がかかるからと今まで扇風機で我慢してきたが……さすがに無理だ。
早く寝て早く治そう。
寝ようとしたその時、スマホが音をたてた。
[大学来てないけど、どうした?]
学部が同じで年齢も同じの男子友達からだった。
「風邪ひいた」
それだけ打って、私は寝た。

頭に冷たいなにかを感じて、目を開ける。
朝よりもだるい。
「あ、起こしちまったか」
「うーん……ん?!」
ガバッと勢いよく飛び起きる。
だけどめまいがして前のめりに倒れそうになった。
「おっと」
それをあいつが受け止める。
いつもなら「なにすんのよ!」って怒るとこだけど、今はそんな元気ない。
適当にお礼を言ってからベットに座り直す。
「なんでいるの?」
「鍵空いてたから勝手に入った。無用心だぞお前」
「だからなんで来たの?」
「連絡しても返事ねーし、電話してもでねーし、そんなにやばいのかと思うだろ、普通。チャイムならしてもでねーし。不可抗力だろ?」
なに?心配してきてくれたの?
スマホの画面を見ると、20件の文字。
他の友達からのを引くと、あいつだけで10件以上来ていた。
「ごめん寝てたから」
「わかってる。体温測れ」
私は頷いて、素直に体温測定をする。
体温計をみて驚く。
え、40……
「うわぁたけえなぁ」
「あ」
「薬買ってきた。あと、作れないからレトルトだけどお粥な。少しでいいから食ってから薬のめ」
「ありがとう。でも、あんた学校……」
不機嫌面のあいつ。
ベットの近くの机にお粥と薬と水の入ったコップをおかれ、手にスプーンを握らされる。
「お前と同じ抗議とってるから、お前と同じとこで振り替えるよ」
安心しろって呟いて、彼はまた台所に戻った。
正直なんにも食べないで寝たかったけど、あいつに言われたのなら仕方がない。
2、3口無理やり喉に流し入れ、薬を飲んで押し流した。
そのまま横になる。
いつの間にか冷房が弱められていた。
「飲んだな」
「うん」
彼は私のとなりに座る。
「お前どうせ風呂上がりに服着なかったんだろ」
「……なに?見てたの?」
「なわけねーだろ!!お前のお母さんから聞いたんだよ、多分そうだろうって」
「あー、母さんね。でもごめんほんと、看病してもらっちゃって」
「いいって、お前とは小学校からの腐れ縁だし。女子大生が独り暮らしで風邪ひいてしかも鍵閉めてないような家にお前を一人にできないだろ」
あー、優しいな。
昔から思ってた、口は悪いけど根はスッゴクいいやつだって。
いつも私を心配してくれたし、頼ってくれるし。
ツンデレなんて言われてる私のツンの部分をなくしてしまう。
何年も前からの気持ちは言えずじまいで。
「悪いわね、いつも」
「だからいいって」
「でもあんたは、私なんて見てないから」
「は?」
「いっつも、他の女の子と、楽しそうにしてるから」
「え、なに?どういうこと?」
特別になりたいなんて、ふざけたこと思ったこと、なかったんだけど。
風邪ひいて体調悪くなると、いつも心も弱くなって、何でも話しちゃうんだよね。
だから、これが本音。
「あんたが好きだっていってんの、ばか……」
「はぁ!いきなりなに言って……って」
「スースー」
「寝てるし」
あいつが私の髪を撫でた。
「起きたら忘れてるとかなしにしてくれよな」
何て言うあいつの声が聞こえた気がした。

『「風邪ひいた」』