「お前の気になる人って誰?」
あなたがそうきいたのは、いたって、普通のこと。
それまで誰が誰を好きだとか、付き合ってるとか、回りの友達たちと話してた流れでそうなったのだから。
「気になる人?」
気になる人と言われても、しっくり来ない。
好きな人といわれても、まあ、同じようなものだ。
同年代の子はみな「○○君が好き」と、なんの迷いもなく言う。
私はそれが不思議でならなかった。
好きって気持ちさえ、私はわからなかったからだ。
あなたは、私の返事にたいして、きちんと説明してくれた。相変わらず、変なところで律儀なやつだ。
「相手ともっと話したいとか、知りたいとか。そういう風に思う人だよ。お前いないの?」
「あー」
いるにはいるかも知れない。
最近毎日話していて、クラスも同じ。
結構暇なときは他愛もない会話を永遠に続けられているし、都合が悪いときは、お互いに連絡を控えるなど、きちんと相手を配慮している。
「一人いるかも?」
私の返答に、あなたは大きく反応した。
目を輝かせて尻尾を振っている犬のようだ。
「だれ?誰?」
ほんと、この人は人の恋愛事情が好きだなぁ。
この間も他のこの好きな人を聞いたっていってたし。
でも、口が固いってのもゆうめいだから、みんなあなたになら話してしまうのかもしれないね。
「ちゃんと気になってるかもわからないから、言えない」
なんて私が言えば、
「じゃあ、気になる人かもしれない人、誰だかいってみ?」
なんえへ理屈を返す。
頭はいいのに、どこか子供っぽい。
あなたは昔から、小学校のと気からそんな人だったね。
「やだよー」
気がつけば、みんな部活にいってしまい、教室に残っているのは、帰宅部の私と、今日は部活のないこいつだけだった。
私はゆっくりと、荷物を片付け始める。
こいつとは、席が隣なんだ。
「いいだろ教えてくれたって」
「いーやーだ」
そんなやり取りを何度か繰り返したところで、やっと、私は荷物を片付け終わった。
あとは帰るだけ。
ちなみに、彼とは家も比較的近く、帰りの電車も一緒だ。
私が教室をでると、当たり前のように彼が後ろをついてくる。
「教えろよー」
たっく。しつこいなぁ。
「言えない」
私は少し厳しめにいった。
「言って」
「だから言えないの」
私は、少し足を早めながらいった。
だけど、あなたは私より慎重も高くて、足も長いから、私のはや歩きは、あなあの歩行速度そのものだった。
それじゃあ意味がないのに、と心のなかでしたうちをしたところで下駄箱につく。
「なんで言えないの?」
履き替えたところで、こいつが口を開いた。
諦めの悪いやつだ。私の気になる人を知ったところで、なんのメリットにもならないのに。
それに、さっきから私はヒントを言っている。
「言わない」のではなく、「言えない」のだと。
何でって問に答えたら、どうなってしまうか。
好きかどうかもわからない。ただ、最近は話しているのが楽しくて、暇なとき付き合ってくれることが嬉しくて、あったとき二人きりでも話してくれるのが嬉しくて。その人のことが目に入って、仕方がない。
「何でって言われてもなぁ」
気づかないあなたはバカですか?
あなたに言えないんだよ。
あなたに言うことができないんだよ。
もしも言ったのなら、何かが変わってしまうから。
もしも言ったのなら、あなたはもう、私と話してくれないから。
あなたに言えないんだよ。
あなたに言うってことは、軽く告白なんだから。
私が気になってるのは、あなたなんだから。
「はぁ」
私はため息をついた。
諦めが悪いこいつは、いつまでたっても聞いてくる。
「じゃあさ」
私はしびれを切らせて、こいつに向き直った。
「1ヶ月たって、まだその人のことが気になってたら、教えるよ」
こいつは、少しビックリしたように目を見開いてから頷いた。
1ヶ月たっても、まだあなたが気になっていたら。まだあなたを目でおっていたのなら。それは、あなたが好きってことになる。
けど今はまだわからない。
だから1ヶ月。1ヶ月だけでいいから時間をください。
ちゃんと、自分と向き合う時間を。
「わかった、1ヶ月な」
そう言って笑うあなたに、一ヶ月後、この気持ちを教えなければならないかもしれない。
私は、あなたがその約束を忘れていればいいのに、と心のなかで思いながら、あなたと一緒に電車にのりこんだら。
1ヶ月。
1ヶ月は、短いようで長く、長いようで……短いのだ。


『1ヶ月』