[今日の宿題って範囲どこだっけ?]
そう、スマートフォンの画面に表示される。
私はテキストから目を離し、スマホを手に取った。
「240と242だよっと」
返信をすると、すぐに既読がついた。
小学校も中学校も同じで、高校も同じになった彼。
クラスも同じで、お互いに質問があると個人で連絡を取っていた。
[ありがとう]
短いけど、それが彼のスタイル。
今回もそれで会話が終わると思っていた。
[今暇?]
暇?まあ、暇だね。
今すぐやらなくちゃいけない宿題でもないし。
「暇だけど?っと」
私は勉強机から離れ、1階へと降りた。
今日は休日。父も母も仕事で、2つ下の妹は部活でいないからとても静かだ。
リビングのソファに腰かける。
[暇ならなんか話そ]
「いいよっと」
最近、なんでもない話を彼とするようになった。
きっかけはたぶん、お互い失恋したから。
春休みあけ、私は恋人と別れた。彼は最近、お祭りに好きな非とを誘って断られたのだ。彼の恋愛相談にも乗っていたから、それが前付き合っていた彼女だったということもしっている。
二人ともひとりで、失恋して傷ついた心を埋めているようだった。
何年もクラスが同じで話しては来たけれど、ここまで仲良くなったのは最近の話だ。
[じゃあ、お前誕生日は?]
「3月3日、てか今まで一緒にいて知らなかったわけ?笑っと」
こんな感じで、他愛もない話を永遠と繰り返す。
誕生日プレゼントくれとかふざけていってみたり、なんか買ってきてよっていってみたり。
二人とも冗談だとわかった上での会話だから、楽しいし、時間を忘れて話していられた。
「あ」
[ん?]
「今忙しい?っと」
[忙しくないけど、なんで?]
「忙しいなら私とこんな話に付き合わせてて悪いなと思ったからっと」
暇?って聞いてきたんだから暇なんだろうけど、もうかれこれ二時間ぐらい話しているし。
そして私は、その返信を見て固まった。
[いや、楽しいから大丈夫]
たの、しい?
こんなただの女友達と話しているのが?
前の彼は、会話なんてしてくれなくなってたし、返事もそっけなかった。
前の彼との会話より、こいつとの話の方が、何倍も楽しい。
「そう?ならよかったっと」
ただの、男友達だよね?
私は、彼と会話を続けながら、そう心のなかで思い返した。

「あ、おはよ」
「おぉおはよう」
次の日学校であいつにあった。
クラスが同じなんだから、当たり前か。
下駄箱から教室までのみちを彼と歩く。彼の友達は途中で自分のクラスへと入っていった。
「あんた、宿題は終わった?」
「お陰さまでね」
「そ、ならよかった」
隣を歩いてみて気がついたけど、結構背も高いんだな。
昔は私のが大きかった気がするけど。
メガネも似合ってるし、髪もさらさら。
以外と、イケメンじゃん。
ん、あれ?
私、なに考えてるの?
こいつがイケメン?
「お前、本当にくれるの?」
難しいかおをしていた私のかおを覗きこみながら、彼が問いかけた。思わず思いっきりかおをそむけてしまい、こいつが怪訝な顔をする。
「くれるって?」
「誕生日プレゼント」
あぁ、昨日私の誕生日を聞いてきたから、私もこいつに聞いたんだ。そしたら夏休み真っ只中の日で友達からプレゼントをもらったことがそんなにないっていうから、あげようか?って言ったんだった。
「うん、いいよ」
私は不自然にならないように、今度はきちんと彼の顔を、目を見ていった。
「やった!」
こいつは顔をくしゃっとゆがめて、嬉しそうに笑った。
そのかおに、ドキッとしてしまう。
子供のような、無邪気な笑顔。
でも、かっこいい。
そんなこんなで教室についてしまった。
まだ席は出席番号順。苗字が離れている私とこいつは、席も遠かった。
何気なく後ろから遠い席で前の方に座る彼に目をやる。
前の席の女の子と頭を叩きあったりしてふざけている。
いつもの光景……の、はずなのに。
彼女にこいつをさわられたくないのはなぜだろう?
こいつに、彼女とふざけてほしくないのはなぜだろう?
こいつの笑顔全てが自分のものになってほしいと思うのはなぜだろう?
私は手でかおをおおった。
え、嘘。私、あいつのこと、気になってるの?
好きかどうかなんてわからない。でも、え?
話してて楽しいし、別に二人でいたって大丈夫。
「うっそ……」
「なにひとりごといってんの?」
自分の席に荷物をおいて私のところにきた彼が、また私のかおを覗きこんだ。
「……!!」
「どうした?顔真っ赤だぞ?」
だって、意識したことなかったんだもの。
だって、友達のままだと思ってたんだもの。
だって、だって、だって!
気になるなんて思ってもみなかったんだもの。
辺りに漂うのは新しい恋の香り。
遅めの春が、私とこいつに訪れた。

『友達?それとも……』