大好きだった、お向かいの家のお兄ちゃん。
私とは2つ違いで、そのかっこよさに私はメロメロ。
幼馴染だから特別扱いもしてくれたし、いつか告白しようともかんがえていた。
だけど、この間女の人とデートしているところを目撃。お兄ちゃんの弟のあいつに確認すれば、「結構前から付き合っている」のだそうで。
私は絶賛失恋中なのです。
「はーあ。お兄ちゃんかっこいいもんなぁ」
持てないはずがない。
博識高く、運動能力も申し分ない。
おおらかで誰とでも仲良くなれる人。
恋に落ちないほうがおかしい。
結局、私は妹としてしか見られていなかったということだ。
「おーい」
「ん?あぁ、なーに?」
-ガラガラ
ベランダに出ると、お兄ちゃんの弟であるあいつが漫画を片手に飛び込んできた。
「ちょ、あぶない!玄関からこいこの悪ガキ!」
「ってぇ!」
思いっきりゲンコツをかまし、仕方がないので部屋に招き入れる。
まあ、さっき玄関から来れない理由がわかったけど。
玄関にお兄ちゃんとその恋人がいたら、その間通りにくいわな。
「はいこれ」
「何?もう終わったの?」
「おう!もっちろーん。続きかして姉ちゃん」
「はいはい」
私は本棚から続編を取り出し紙袋に詰める。
私の1つ下で、お兄ちゃんとは3つ離れている。お兄ちゃんは今大学一年生だ。
「はい」
「サンキュー姉ちゃん」
「本当にありがたいと思ってるんでしょうね、まったく。なんか飲む?」
「おう!」
私は一人っ子で兄弟がいなかったけど、お兄ちゃんとあいつのおかげで寂しくなかった。あいつももう高校一年生か。
どことなくお兄ちゃんの面影があるけど、性格は随分違うわね。悪ガキのままっていうか。
あぁ、でも頭はいいんだっけ。
「お待たせ」
「ん!俺も家からお菓子持ってきた」
「また、ベランダ飛び越えて⁈」
「うん」
「だからやめろって言ってんでしょーが!」
「ってぇ!」
本日2度目のげんこつ。さすがに手がいたい。
「怪我したらどうするのよ、バカ!」
「ご、ごめんなさい」
もう、いつまでたっても弟なんだから。
お菓子は、私の好きなチョコレート。
飲み物は、あいつの好きなブラックコーヒー。ピーマンが嫌いだとか言っていたあいつが、まさか大人自他になっているとは思っていなかったけどね。
「ねえ、姉ちゃん」
「なに?」
「彼氏いるの?」
「なによ唐突に。私がお兄ちゃん好きだったの知ってるでしょ?」
「じゃあいないんだ。好きな人は?」
「いないわよ。お兄ちゃんには幸せになってもらいたいしね」
本心だ。
お兄ちゃんはあの性格だから騙されやすく、何かとトラブルに巻き込まれることも多かった。
やっと、優しそうでいい人を見つけたのだから、妹としては幸せになってもらいたい。
彼女の存在が発覚してから半年も経てば、恋心よりその思いのほうが強くなる。
だからと言って、いきなり好きな人ができるわけではないのも事実だ。
「ふーん」
「もーなによ。あんたこそいないの?好きな人」
「いるよ」
「へー。意外彼女は?」
「できたことねーよそんなの」
「へー、それもまた意外。あんたかっこいいのにね」
あ、少し顔が赤くなった。
わかりやすいなぁ、照れちゃって。
「ずっと、幼馴染でいてよね」
「いやだ」
「は⁈」
そういったあいつは勢いよく立ち上がり、真っ赤になった顔で叫ぶ。
「なぁ、もう兄貴じゃなくて俺を見ろよ!背だってでかくなったんだ。2年前までは姉ちゃんより10センチも低かったけど、今は10センチ高くなった」
「ちょ、どうしたのよいきなり」
つられて立ち上がる。
あ、本当だ。小さいと思っていたあいつは、いつの間にか私の背を追い越し、筋肉のついた男の人になっている。
「俺、出会った時から姉ちゃんが好きなんだ。でも姉ちゃんはずっと兄貴が好きで……」
「ちょっと、ねえ」
あいつは距離を詰める。
私の背中が壁に当たったところで思いっきりあいつは壁に手をついた。
幼かった顔が、いつの間にこんなに整ったんだろう?
「俺は本気だから。もちろん恋愛的な意味だからな。本気で姉ちゃんが好きだから」
「//////////」
直接そんなこと言われたら、照れるじゃん。
私はおもわず俯いた。
「優しくて、俺のために怒ってくれて、ワガママも聞いてくれる。でもこれからは、俺が姉ちゃんを守れるようになるから。兄貴じゃなくて俺にしてよかったって思わせるから」
やだ、なんか、かっこいいじゃん。
ずっと弟だと思っていたのに、いつの間にか立派な男の子になっていたなんて。
「俺、諦めないから」
「っ!」
あいつが10センチの距離を埋めた。
私は嫌じゃないと思ってしまった自分に、とても動揺していた。

『10センチ』