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足が速くても活躍できる場所なんて限られてるけどね。


マラソン選手やオリンピックなんて目指していないから帰宅部だし。


年を取れば勝手に消えていくような才能だった。


そんな足の速さを使ってあたしは今日も遅刻ギリギリに学校へ到着した。


寸前まで家でゴロゴロしているためじゃない。


あたしが今日も遅く起きた理由はただ1つ……。


「よぉ、サナギ!!」


後ろから元気な声が聞こえてきて、あたしは教室の手前で立ちどまって振り向いた。


そこには額に汗を滲ませて走って来るクラスメートの松井原京介(マツイバラ キョウスケ)の姿があった。


「京介」


「相変わらず遅刻寸前だな!」


京介はそう言い、あたしの頭をクシュクシュと撫でた。


「もう、髪の毛がぼさぼさになっちゃうでしょ」


そう文句を言いながらも、今日も朝から京介の手の大きさを感じられて、あたしの心臓はドキドキしている。


あたしがいつも寝坊する理由はこれ。


京介と同じ時間に登校し、少しでも会話する時間を作りたいからだった。