「はい、これで半分ずつね!!」


春兄に笑顔を向けると、穏やかな眼差しで微笑み返された。春兄は私が渡した肉にナイフを入れながら口を開く。


「こうやってお互い色々なものを共有していくのっていいよな」


「…そうだね」


私は昔から春兄から与えてもらってばかりだった。だから、春兄と何かを"共有"することで少しでも春兄に近づけるような、そんな気がする。




食事を終え、ゆっくりとお店を回ったところで春兄は口を開いた。


「藍、これから連れて行きたいところあるんだけど、いいか?」


「え?」



立ち止まったところは出入り口の手前。私が用意したサプライズがある場所は丁度反対側だった。


「ダメか?」


「ち、違くて!!あー、えっとー、あ、そうだ!!春兄と待ち合わせする前に私買い物して、向こうのロッカーに預けっぱなしだったんだ!!申し訳ないんだけど、とってきてもらえるかな?」


「え、あー、そうなのか?」


自分にしてはナイスな声掛けだったと思うんだけど、ちょっと不自然だったかな。



私からロッカーの鍵を受け取り不思議そうに春兄は背中を向けロッカーの方へと歩き出した。自分の荷物くらい自分で取りに行けとか、そういうこと言わないんだよな。




こっそりと春兄の後をついて行く。まるで宝探しの宝物を隠した時のようなドキドキ感が高まる。





春兄はロッカーの前で立ち止まる。そこから少し距離を取り、物陰に隠れながらその様子を伺う私の姿は側から見たら不審者だろう。



実はロッカーに、春兄へのプレゼントを隠したんだ。それも、ただ置いただけじゃなくて、ロッカー内に軽く装飾を…




「…」



ロッカーの扉が開かれた。正面に立つ春兄は微動だにしない。うふふ、驚いてる驚いてる。




大きな春兄の背中の向こうにチラッと見える私が仕掛けたサプライズ。


"Happy Birthday"と書いてあるフラッグ、造花をいくつか散らせてカラフルな装飾を施した。


その中心にあるプレゼントの中身は男性に人気のブランドの時計だ。実は、春兄の部屋に遊びに行った時、そのブランドの時計の特集が組まれている雑誌を穴が空くほどずっと見ていたのを私は知っていたのだ。



「はーるにぃ」


「…藍」


私の声に数秒遅れで反応した。その目には驚きに満ち溢れているのがわかる。


「うふふ、びっくりした?」


「藍、これって…」


「私からのサプライズだよ!お店出ようとしから慌ててこっちに連れてきたの」


「藍の買い物の荷物は?」


まだ状況が飲み込めていないようだ。自分のための買い物なんかじゃなくて、春兄へのプレゼントが私の買い物の荷物だってこと。