迎えた1年記念日。私たちは今、特急列車に乗っている。空は快晴で、窓の向こうに見える景色がとても綺麗なのに、窓に微かに映る自分の表情が緩み過ぎていて気持ち悪い。


「春兄、本当は予約してくれていたんじゃないの?」


「いや?」


何かを企んでいるかのように悪戯っぽく笑う春兄。その顔に確信犯だと思った。


私の誕生日から今日まで日は経っていない。あの時私に記念日で行きたいところを聞いてきたけれど、今のこの時期に箱根の旅館なんて急にそんな簡単に予約できないはずだ。


だから私は思った。予め前もって準備はしてくれていたのだろうって。


その上で私に行きたいところを聞いて、もし私が答えたら箱根の旅館をキャンセルしようとしていたのかな。


本当に優しい人だ。


「私、箱根って初めてなんだ〜!温泉も楽しみ!あと、黒卵も有名だよね!!」


「藍、はしゃぎすぎ」


座席のポケットネットに入っていた箱根のリーフレットを広げながらあれやこれやと予定を勝手に立ててはしゃぐ私を春兄は笑う。



「旅館も楽しみ!!」


「はは、わかったわかった」


頭を撫でられた。付き合うまでも付き合ってからも、この仕草にはドキドキしっぱなしだ。