浮かれる気持ちを抑える気もなく、キラリと光る指輪を見て頬が緩んだ。


「もうすぐで1年なんだね、あっという間だったな…」


「…そうだな」


二人の間に優しい沈黙が流れた。店内にかかっているクラシックと他のお客のナイフやフォークが食器に当たる音だけが耳に入る。


付き合ってからの1年も、付き合うまでの期間も色々なことがあって、嬉しいことも悲しいことも今となっては優しい気持ちで思い返すことができる。


多分、春兄も今同じことを思っているんだろうな。


だけど、春兄からしたら10年もずっと私のことを好きでいてくれて、私以上に様々な感情を巡らせているのだろう。


「藍、ありがとうな」


突然の感謝の言葉に首を傾げる。


「生まれてきてくれてありがとう。俺のそばにいてくれてありがとう。いつも笑ってくれてありがとう」


「は、春兄どうしたの?突然」


何だか恥ずかしくなり言葉が途切れ途切れになった。春兄はよく"ありがとう"と言う人だけど、こんなに立て続けに言うことは今までなかった。


「言いたくなって」


ふわりと笑うその顔に、ついさっきまであった恥ずかしいという気持ちがサーっと引いていくのがわかった。



「1年記念日、どこか行きたいところある?」


「行きたいところ?んーっと…」


考えるけれど特に"ここ"というところが思いつかなかった。"どこに"行くかより"誰と"行くかなんだよな…


「私は…春兄とならどこに行っても楽しいよ」


ポロリと口から出たその言葉に春兄からの返事はなかった。


「春兄?」


「俺も」


「ん?」


春兄は下げていた視線をゆっくりと私の方に向け、再び笑みを浮かべた。


「俺も、藍とならどこに行っても楽しい」


周りは上品な大人のカップルばかり。それに比べたら私なんてまだまだお子様だ。


だけど、私は今、凄く幸せだ。ここにいる誰よりも幸せだ…-----