綺麗に拭き終わったトレーを戻すついでにドーナツを前出しする石田さんに声を掛けた。


「あの男性二人組のお客様って、私がここで働く前からよくいらっしゃってるんですか?」


「たまに…ってくらいかしらね。鵜崎さんが始めてからよ、頻繁に来るようになったのは」


『メンズキラーね』とウインクする。美形の石田さんのウインクは、目から星が流れて私の胸に刺さるような感じがした。


「ま、眩しいです石田さん」


そうか、元々常連さんだったのか。


「いつも二人ですか?」


「二人の時もあるし、あの黒髪短髪の人一人の時もあるわ」


木下さんはよほどドーナツが好きなのだろう。


返却口に返されたトレーや食器を洗ったり拭いたりしながら、ぼけーっとそんなことを考えていた。




***



次の日も出勤だった私は、いつものように制服に着替えてフロアに向かった。ちょうどピークは過ぎた時間帯だったため、閉店までの最低限のドーナツの製造と補充を行う。


まだまだ下っ端の私は製造までは任されないのだけれど。


暇だしレジに表示されるドーナツやドリンクの場所を覚えようと思い、黙々とレジをいじっていた時だった。


ポンと置かれたトレー。目の前に立つ人物を見てレジを操作する手が止まった。


「い…いらっしゃいませ」


「…」


あれ…今日は、一人?


チラッと目の前に立つ人物の周辺を伺うが、誰もいない。木下さんがたまに一人で来ることはあるって石田さんから聞いていたけれど、まさか…


「今日はお一人なんですね」


「…あぁ」



山下さんが一人で来るなんて誰も思わないじゃん!!!


山下さんもそんなにドーナツ好きなの!?



「こちらでお召し上がりですか?」


「いや、持ち帰りで」


必要以上の会話をしない。というか、できない。無駄に緊張感が漂い、いつもよりレジを打つ手が鈍くなる。


「…ドーナツお好きなんですか?」


「…普通」


普通なんかい!!


相変わらずの鋭い目つきに少々怯えてしまう。いつもは木下さんがいたから漂う雰囲気もマイルドだったけれど、山下さん一人だとそれがない。


「3点で530円です」


お金を受け取り、袋詰めしたドーナツを渡す。任務完了と思いきや、山下さんは手帳型ケースの携帯を取り出し、それを開いて何やら小さなメモのようなものを抜いて私に差し出した。


「…えっと…山下さん?」


「…これ」


無理やり私の手にそれを握らせ、足早に去って行った。


不思議に思いながら手渡されたメモを開くと…




「…っ!?えええ!?」