バイト終わりに春兄と夕食を食べていた。こうして春兄とゆっくり過ごせるのもあと少しなのかな…


会社の研修で、4月に入ると忙しくなるみたいだし。


「バイトは順調か?」


「うん、お陰様で!」


そこで春兄のお友達がバイト先にお客様としてやって来たことを話した。あまりの偶然でテンションが上がる。


「実はね、春兄の大学の友達って名乗る人がお店に来たの!二人組なんだけど、私一人としか喋ってなくて」


「えっ…」


「喋った人の名前はね、木下さんって言うらしいんだ!随分春兄と仲良いみたいだけど」


その名を出すと明らかに表情が曇った。何かまずいことでもあるのかな。


「…藍、変なことされなかった?」


「え?別に…仕事中だったしね」


「そうか、ならいいんだけど」


木下さん、変なことしてくるような人には見えなかったけどな。


「あいつ、ずっと前から藍に興味持ってて、まぁ俺が話したのがいけないんだけどさ。付き合い始めたこと話したらからかってくるんだ。だから何か変なこと言われたりされたりしたらすぐ言えよ?」


あまりにも真剣な顔でそう言うものだから、何だかおかしくなって吹き出してしまった。そんな私に『真面目に言ってるんだぞ』とその表情を崩さない。



「木下と一緒にいるやつってどんなやつだった?」


「んー…ちょっと目が冷たくて怖いな〜って思った」


「…あぁ、あいつか」


小さく呟いてドリンクに口をつけた。何気ないその仕草に色っぽさを感じる。手の甲の筋と浮き出た血管にキュンとした。


今まで春兄の大きな手に頭を撫でられたことは何度もあったけれど、付き合い始めてまて違った目線で春兄の手を見ると、男らしくてかっこいいなと思う。



「春兄知ってるの?その人も友達?」


「まぁ何度か顔を合わせたことがある程度だけど」


その人も大学の人なのかな…とにかく、春兄の知り合いなら悪い人ではなさそうだ。