「あ、あの…」


「名前、"ウサキ"って読むでしょ?」


いつの間にかタメ口になっている。どうして私を知っているのか、ただのナンパではなさそうだし…


「俺、竹内の大学の友達で、木下っていうんだけど」


竹内の友達…え、春兄の!?


「え、どうして私のことを!もしかして春兄から何か聞いていたんですか?」


仕事中ということもお客様と店員という立場であることも忘れ、"木下"と名乗る彼の話に食いついた。


「ずっと好きな幼なじみがいるって話はだいぶ前から聞いていてさ。で、めでたく付き合うことになったって聞いた時に君の名前も教えてもらったよ。"ウサキ"なんて珍しい苗字だから、そのネームプレート見てまさかと思った。あいつの地元も近いしさ!」


"ずっと好きな幼なじみ"…


春兄は大学の友達に私のことを話していたんだ。照れて顔が少し赤くなる。


「あの、春兄がお世話になってます」


深々と頭を下げる私に木下さんは笑う。


「あははっ。でも聞いてた通りの子だ。可愛くて小さくて、なんか小動物みたい」


「えっ!?」


小さいのは認めるけれど、可愛くはない!!決して!!断じてない!!


「こりゃあ竹内が放っておけないのも頷けるな」


「いやいや何を仰います…」


ふと木下さんの向かいに座るもう一人の男性に目をやる。ダークブラウンの髪に切れ長の目。シャープな顔立ちからクールな雰囲気が漂う。


ずっと黙っている彼と交わった目線に少し怯み、反射的に目を逸らしてしまった。


何だか…怖い人だな。こんな人もドーナツ食べるんだ。木下さんは何となく想像できるけれど。あ、これは偏見だね、いけないいけない。


「あ、私そろそろ戻りますね」


その場から逃げるように立ち去る。



「鵜崎さん遅い。コーヒー出すのにどれだけ時間が掛かっているの」


「す、すみません…」


石田さんの喝に肩がすくむ。彼女はいつも言っていた。『オンとオフの切り替えはしっかりと』と。まさにその通りだ、ちゃんとしなくちゃ!