「藍…渡したいものがあるんだ」


「え?」


自然と離れた体。ショルダーバッグの中を漁る春兄の手元をじっと見ていた。


そして取り出されたのは、細長い箱に赤いリボンでラッピングされたものだった。それを私に差し出すが、すぐに何かを思いついたように春兄がラッピングを外していく。


「藍、上着のボタンとって」


反射的に春兄の上着に手を掛けようとした私を言葉で制す。


「俺のじゃなくて、藍の上着」


「あっ」


…なんというミス。恥ずかしい。


言われた通りボタンを外していく。首元にファーがついていたから、ボタンを外したことで首元が露わになり、冷たい風が当たった。


春兄は私の後ろに来て首に腕を回す。バックハグのようなシチュエーションに心拍数が上がりながらも、首元に感じたひんやりとした冷たさを不思議に思う。


目の前に戻って来た春兄は私の首元を見るなり『うん、似合う』と口にした。


もしかして…


咄嗟にカバンから手鏡を取り出す。映し出されたのは、深いブルーの石が嵌め込まれたネックレスだった。


パッと顔を上げると、優しく笑う春兄と目が合った。


「クリスマスプレゼント」


「春兄…」


私、こんなに愛されてて、こんなに幸せでいいのかな。美味しいディナー、見たことない景色、大好きな人からのプレゼント、そして大好きな春兄。


このクルーズ船に乗っている人の中で絶対私が一番の幸せ者だ。


「春兄ありがとう!」


大きな体に飛び込んだ。私の背中に回される春兄の腕。包み込まれるような感覚に安心する。春兄の鼓動と体温が伝わってくる。


「藍…あのさ」


抱きしめられたまま、春兄の声が上から降って来た。


「ん?」


「…」


なかなか言葉を発しない春兄を不思議に思い、少し体から離れて見あげようとしたが、ギュッと力を入れられそれができなくなった。


「は、春兄?」


「俺…さ、もう藍の"お兄ちゃん"じゃないよね」


「え?う、うん」


今は正真正銘の恋人同士だ。でも急にどうしたのだろう。