船内の壁沿いにテーブルがずらーっと並ぶ。小窓の数分だけテーブルがセッティングされ、それぞれのカップルが皆平等に外の景色を堪能できるようになっている。


アナウンスが船内に響き渡った。


「皆様、今宵はどうぞクリスマスの夜景を存分にお楽しみ下さい。それでは出航致します」


ゆっくりと動き出すクルーズ船。その感覚にまるで子供のように目を輝かせる。


「わぁ!動いた!春兄動いた!!!」


窓の外の夜景から春兄に目を移す。春兄は頬杖をついて微笑んでいた。


あ、また私は…こんなんじゃ付き合う前と変わらないじゃん。


伏し目がちに周りに目をやると、お上品に楽しんでいる人ばかり。こんなはしゃぎ方をするのは私だけ。


もっと大人にならないと。






出航してしばらくすると、ウェイターさんがやって来た。


「お飲み物はいかがなさいましょう。オススメはシャンパンのドンペリニヨンですが」


「あ、車で来てて、彼女も未成年なので…藍、何飲む?」


ドリンク表を私に差し出す。


ドリンクだけでもこんなに…!?



ウェイターさんが注文を待っているその傍、全てに目を通すのも時間が掛かるし、早くしないと!と焦りを見せるのも子供みたいだから、一番最初に目に留まったものを注文した。


「あ、じゃあアイスティで」


「僕はホットコーヒーでお願いします」



『かしこまりました』と軽く頭を下げる。流れるような動作に思わず見とれていた。あ、別に変な意味は全くなくて。



しばらくしてドリンクとディナーが運ばれて来た。ナイフとフォークだ…普段よく使っているのにこんな豪華で上品なところで使うそれは、何だか別のように感じる。


顔を上げてチラッと春兄の手元を見ると、綺麗に使っていた。様になるな…春兄。


気持ちを落ち着かせ、料理を口に運んだ。



「ん、美味しい!」


「たまにはこういう食事もいいよな」


「うん!」



食事を終えた頃、ふと窓の外に目をやると、イルミネーションが見える範囲が広くなっていた。景色を一望出来るところまで進んだってこと?


そんなことを思っていると、春兄が口を開く。


「そろそろ船外に出るか。風、冷たいと思うけど、外の方が見やすい」


思えば席を立っているカップルもちらほら。そうか、ディナーを食べ終えたこの時間帯が一番良い眺めを見ることができるんだ。


私たちも船外に出た。冬の海の上、冷たい風がツンと頬を掠める。


けれど、寒さを感じさせない絶景が目の前に広がっていた。


凄い…綺麗。


横に立つ春兄を見上げる。同じように景色を眺める春兄の横顔は、いつもより更に大人っぽく見えた。


春兄…ありがとう。


そっと春兄の裾を掴む。春兄は気づかない。


その手を離し、ゆっくりと優しく春兄の腕に自分の腕を絡めた。やっと交わった視線にドキドキが増す。


「藍…?」


「春兄、素敵なクリスマスをありがとう」


自然と口から漏れた。その言葉に春兄は少し恥ずかしそうに微笑んだ。