「大人しくしとけよ」


そう言ってここを出ていく男。


ジャラ……


私の足にはベッドに繋がって鎖がある。

この部屋の中は自由に動けるが、あと1歩というところで出られない距離。

ほんと、こーゆーの好きだよね。

私は倒れていた体を起こすと痛みに耐え、立ち上がった。

あの人は部屋の隅で暴力を振るう。

きっと逃げ場がないように。

乱れてしまった制服を治すと、放り投げられていたカバンから携帯をだす。

わ……すごい数の着信。

電話、かけてみるか。



……あの男、私に逃げられたくないくせに携帯とかは取らないから馬鹿だと思う……

いや、前は持ってなかったからな。当然持ってないものだとでも思っているのだろうか?

それか、"今回は"逃がしてもいいと?



プルルルル…プチッ


「もしもし」

「あ……昴?」

割と早く出た。

「ああ。どうした、学校は」

「…寝坊かな?」

寝坊したのは本当。

「今日、来ないのか?」

今日、っていうか。
当分来れないかもな。

いや、一生?
なんて。

「……もう会えないかもね」


少し自傷的に言う。

少しでも、気づいてほしかったのかもしれない。



「………………今どこにいる」


昴は私の呟いた小さな声が聞こえたのか、そう聞いてきた。


「あはは、うそだよ。
今日は行けない。明日ね」


こんなふうに取り繕った笑いなんて初めてしたかもしれない。


お陰で顔は引きつったまま。


「おい、陽葵?」


昴の事だから不審がってる。

いや、昴じゃなくても不審がるか。