「…………行ってきます」


誰もいない部屋にそう言葉を残してマンションを出た。






なんだか最近、幸せだな。

何でもない日がこんなに幸せと思うなんて。

今までの私じゃ考えられなかった。

でもきっと……




それは突然壊れるものだ。










「出てきたらどうですか?」





私は学校に行くはずの足を止め、後ろを振り返えらずに言った。


「………なんだ、バレてたのか」




………やっぱりね。


私の運命は変わらない。



「ええ。よくわかりましたね。
私の居場所」


そう言って振り向いくと、電柱の影にでも隠れていたのか。


全身黒のスーツに身を包み黒いサングラスをし、白髪まじりの短髪はワックスで固められている背の高くてガタイのいい男がいた。


「大きくなったね、陽葵」


「………名前を呼ばないで」


私の名前はあなたみたいな人に呼ばれるために両親がつけたものじゃない。


「そう怖い顔をするな。
可愛い顔が台無しだ」


「………何のようです?」


目の前の相手に向かって言う。

……なんで今なんだろう。

なんで今………


いや、決まっていたことだ。

私の幸せは長くは続かないこと。

「わかってるくせに、聞くな。
俺はそういう事が嫌いだ」


そう言って目を細くして私を見下ろす男。


「……ごめんなさい」



それに謝るしかない私は小さい。