それは、一般職で雑務しかさせてもらってない結乃には、縁のない〝賞〟でもあった。
結乃や敏生が勤めているこの会社は、部署を越えてプロジェクトが組まれることもよくあることのようで、むしろ活性化のために奨励されていた。


「社長賞の副賞は、ハワイ旅行らしいけど。芹沢くんと二人で行くのが、本当の目的だったりして…!」


オバサン事務員の顔が、憶測を含んでニンマリと笑った。けれども、結乃はとても一緒になって笑える心境ではない。同じプロジェクトを進めていく中で、その仲が親密になっていくのは、大いにあり得ることだ。


……と、そこに、ミーティングブースから敏生が出てきて、チラリとそこにいた結乃にも視線をくれた。いつもならば、その視線を優し気に和ませてくれるのに、この時はそんな状況ではなかった。すぐに篠田さんらしき女性が、敏生を追いかけてくる。


「ちょっと、とにかく。この企画案と資料に、目を通して改善点を教えてよ!!」


どうしても敏生をこの企画に引き込みたいらしく、しつこく食い下がってくる。篠田さんの歳の頃は三十。その〝押し〟にふさわしい、キリっとして意志の強そうな美人だった。オフィスの人目もあり、敏生も事を荒立てることができず、仏頂面のまま観念して書類を受け取る。