プシューーッ その時、バスのドアの開く音がして、結乃は我に返った。目の前には、いつの間にかバスが到着している。 「あ、乗らなきゃ……」 まるで独り言のように呟くと、傘の下から踏み出して、バスのステップを上がる。 ドアが閉まり、バスの中から結乃が敏生に向き直ると、敏生は結乃を見上げて、まだ硬直していた。 バスが走り始める。雨の中で、バス停に佇《たたず》む敏生の姿が遠くなっていく。 その敏生の手には、結乃の水色の傘が握られたままだった……。 (第五話 完 )